
ひろ

夢
平均 3.1
ワーナー・ブラザーズ製作、黒澤明監督・脚本によって製作された1990年の日本・アメリカ合作映画 ・ 黒澤明監督が見たという夢を題材にした8つの短編からなるオムニバス映画。日本で出資者が見つからず、スティーヴン・スピルバーグの紹介でワーナー・ブラザーズと契約。フランシス・フォード・コッポラの助言により、初のデジタル合成を導入し、特殊効果にはジョージ・ルーカスのスタジオが参加している。さらに役者としてマーティン・スコセッシが出演している。 ・ 日本で出資先が見つからなかったとは、ちょっと日本の業界の感性を疑いたくなるけど、これだけそうそうたるメンバーが黒澤監督のために力を貸しているのは、「世界のクロサワ」の力を感じる。どの監督も黒澤明の影響を強く受けた監督だし、黒澤明を尊敬していたのがよくわかる。 ・ 元々、黒澤映画はメッセージ性が強い作風だけど、晩年の黒澤映画は、後世へのメッセージをたっぷり物語っている。特に驚いたのは「赤富士」だ。偽りの安全が崩壊し、原子力発電所が爆発したという話。まさにいまの日本そのものだ。先見性のある監督が訴えていたのに、いまのような事態になって残念だ。 ・ 「鬼哭」は、反戦を謳い続けた監督が危惧する未来。人間の愚かさが伝わってくる作品だ。「桃畑」は、ただただ美しい。美しい映像の前には言葉などいらない。「鴉」は、監督が好きだったゴッホを描いた作品。芸術的な映像に圧倒される。 ・ 最後の「水車のある村」は一番好きな短編だ。自然を大切にすることの素晴らしさを伝え、生きることは面白いと語る。最後の葬式は祭りのように賑やかに死者を送っている。これは、人生の終盤を迎えた監督自身の葬式を模しているのだろう。監督として生き抜いた黒澤明のことを考えると、胸が熱くなる作品だ。 ・ 短編で短いし、シチュエーションだけでメッセージ性があるので、あまり役者の演技は目立たないが、ほとんどの短編に出演している寺尾聰や、「鬼哭」で鬼を演じたいかりや長介、「水車のある村」で老人を演じた笠智衆など、名優ばかり。特に長きに渡り日本映画を支えた笠智衆の台詞は深かった。「鴉」でマーティン・スコセッシがゴッホを演じているのも見逃せない。 ・ 人間に寿命があるのが歯がゆい。世界の映画の歴史の土台になったと言ってもいい黒澤明監督の映画を、もっとたくさん観たかった。それでも、数多くの作品を残してくれた。そのひとつひとつに、黒澤明の魂が込められている。この「夢」という作品から聞こえる、黒澤明の声を聞いてもらいたい。