レビュー
星ゆたか

星ゆたか

3 years ago

3.0


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月はどっちに出ている

映画 ・ 1993

平均 3.0

2022.12.14 崔洋一監督(1949~2022)11月27日、膀胱癌で73歳の生涯を閉じる。 その代表作品の一つ。この年の映画雑誌・キネマ旬報ベスト・ワン。 監督・脚本賞=崔洋一・鄭義信。 主演女優賞=ルビー・モレノ(65年生まれ)。 新人男優賞=岸谷五朗(64年生まれ) 在日コリアンのタクシー運転手と、パブで働くフィリピン女性との恋物語。 『儲かりますか?』『ボチボチですやんな。』を挨拶がわりに繰り広げるこの二人、まるで関西の夫婦漫才のようなノリ。 出会いから強引な男の方からの掛け合いで関係をもち。 しかし特に彼女の方からのその後の彼へのドツキぶりにコジレ、もう関係修復不能かと思いきや、腐れ縁なのかくっついては離れの様子が続く。 後にこの岸谷五朗さん、実生活でもワイフにするプリンセス・プリンセスの女性ボーカル・奥居香さんとの出会いも。 ラジオ番組の口喧嘩が結婚のきっかけになったというから、綺麗ごとの口合わせより、喧嘩できる位の、本音を率直に言い合える人間の方がイイってことか。映画とは直接関係無いが、そこまで勘ぐってしまった。 また同じようにルビー・モレノさんも本作で数々の女優賞を受けるが、私生活で公表してない脳性マヒの子供を持つシングル・マザーの暮らしから、ドタキャン・トラブルや言動がワガママと取られ事務所を解雇され。95年に帰国。00年に日本人商社マンと再婚し再び来日。などと映画の印象も人物像としてダブル。 またさらに崔洋一監督もその後2010年のNHKのTV討論会で。 〈日本と韓国の歴史認識の違いについて〉で。 当時の植民地支配の考え方の中で、日本の韓国併合(36年に及ぶ)は仕方ないとの考えを肯定する人間に歴史を語る資格はないと発し、逆にそのような言論封鎖もしてはならないと、他の論者からたしなめられるといった、熱い討論になった経歴もある。 つまりこの映画全体のキムチパワーと言うべきならではのエネルギーと、通じる所がある。監督と脚本のこの二人は在日韓国人出身だ。 登場してくる人達の普通の生活が熱い感じなのだ。 そしてそれは二人の周囲に個性的な人間をクンズホグレズの関係で配置し、大変賑やかなテンヤワンヤ・ハチャメチャな雰囲気に終始する映画として圧倒してくる。 けれどお茶漬け文化の私としては。 映画の舞台となった交通手段としての、タクシーに乗り合わせたレベルで、綺麗ごとでも日々の挨拶言葉を交わし付き合えれば、とりあえず良しとしたい。 もっとも劇中、萩原聖人さん扮するタクシーの客との描写。 大変在日韓国人にとても理解ある会話を車中、主人公の運転手としておきながら。 8610円の支払いになり車から降り、『金が足り無いから部屋から持って来ますから少し待って下さい』と言って、猛ダッシュで走り逃げようとするこの日本人のサラリーマン風スーツ姿の客。 すると逃がさまいとどこまでも追いかける在日韓国人の運転手。 追いつかれ遂に乗り逃げしようとした男が、平伏して一万円の紙幣を差し出す。ちゃんと持っているのだ。だったら払えよ!って話だ。ちなみに在日韓国人の運転手はちゃんと、お釣りは返した。誇り高く。『ありがとうございました』と。 つまりこの辺に、日本人の韓国人への扱いの態度を見てる、作者の在日韓国人の視点が読み取れるか? この場合はタクシー乗車と客との契約状況の上での取り決めだから、当然守るべきなのは当たり前なのだが。 しかし過去の例えば慰安婦問題を今日、取り上げ未来の国際関係の壁にする動きと、すでに責任果たし済みとする考え方との違い。 そのような双方の国の歴史観は今後とも、冷静に愛情ある対応で、話合いが必要だろう。そんなことを考えさせた映画。 タイトルの「月はどっちに出ている」はこの物語に出てくる、在日外国人の運転手が、度々道に迷いタクシー営業所に電話してくる問に、出発点の日本人の答え。時間による月の位置で、帰る方向を探りだす、導きだすのだ。カーナビなど無い時代の物語らしいユーモラスな“振りどころ”だけれど。 この辺にも人生の方向性に迷った時は、個人の感情に振り回されることなく、冷静に落ち着いて、歴年と続く自然の理に頼るんだとする考え方が見られるか。