レビュー
Till

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4 years ago

3.5


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ハッチング―孵化―

映画 ・ 2022

平均 3.2

フィンランドの新鋭女性監督ハンナ・ベルイホルムの長編デビュー作となったホラー映画。 12歳の少女ティンヤは、完璧で幸せな自身の家族の動画を世界に発信することに必死な母親を喜ばすため、全てを我慢して自分の感情を抑え込み、新体操の大会優勝を目指して練習に励んでいた。ところがある日、ティンヤは森で奇妙な卵を拾う。家族に内緒で温めているとやがて孵化し、中から「それ」が生まれて…。 徐々に“大きくなる卵”、少女が“吐き出したもの”を“食べる”「それ」、途中で登場する“修理屋”の男、など出てくるものすべてが象徴的。これは何を表しているのか?何のメタファーなのか?そんなことを考察しながら鑑賞する楽しさを存分に味わえる秀作だった。 それにしても母親の毒親っぷりは恐ろしい。SNSにあげられる“幸せな家族像”は虚像に過ぎず、実際には完全に破綻している。特に母親の娘に対する精神的な攻撃はもはや虐待で、こいつの存在が一番ホラー。父親の傍観者ぶりや弟の嫉妬深さも奇妙で、この家族には終始“異様さ”が漂っている。「卵」のファンタジー的な要素が目立つ本作だが、このリアルな人物描写も非常に見応えがあった。 また、『プロメテウス』や『ジュラシック・ワールド』などを手掛けたアニマトロ二クス・デザイナーのグスタフ・ホーゲンや『プライベート・ライアン』、『ダークナイト』でアカデミー賞メイクアップ賞にノミネートされた特殊メイクアップ・デザイナーのコナー・オサリバンなど一流アーティストが制作した「それ」の造形も見事。CGを使わず一から作り上げているからこそ出せるこの“質感”はCGに頼りがちなこの時代には逆に新鮮かもしれない。 初長編監督作品ということもあって肝心のホラー演出に関してはまだまだ洗練されていない感じはしたが、思春期の少女の葛藤を「卵の孵化」で表現するというその斬新な発想力、そして実行力は確かなものなので、この監督の今後には期待できそうです。