レビュー
長年連れ添ってきた夫婦のナデルとシミンは、意見の対立から離婚を考えることになります。夫のナデルは認知症の進んだ父を見捨てることができず、父の介護を続けると言い張りますが、彼の抱える問題は日本でも非常に深刻で、いつかは自分にも降りかかることではないかと身につまされる思いがします。 一方で妻のシミンは、国外への移住を提案し、ここに決定的な亀裂が生まれます。ナデルの父は息子のこともほぼ覚えていない様子なのに、シミンの名前だけは繰返し呟くほど覚えているのです。そんな父を見捨てるなんて、なんてひどい女だと思うかもしれませんが、実際にイランでは国外に移住する女性が増えています。 いかにイランが女性にとって生きにくい国かは、父の介護のために雇われることになるラジエーを見れば明らかでしょう。まだまだ女性の人権が認められず、ほぼ差別に近い姿を見せられると、妻シミンの決断にも理解を示さざるを得ません。また、ラジエーはコーランの教えを徹底して守る信仰心の厚い女性でもあり、このことが更にこの事件を複雑にしていくのが、なんとも皮肉です。 そして、一番この映画で辛いのはそれぞれの立場からそれぞれの信念を主張する二人に引き裂かれる、娘のテルメーです。子供を持つ親御さんにはかなりキツい映画かもしれません。一つの映画のなかに国外・国内の問題を描くことに成功し、各々にキッチリ感情移入させながら、しかもストーリーに破綻がないという、ありえないレベルの傑作です。
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