レビュー
一見単純に見える事件を混迷極まる事態にエスカレートさせているのは、登場人物の抱える「偏見」や「先入観」に他なりません。現場付近を歩いていた怪しい知的障害者を犯人と断定し、やがて蛮行に身を落としていくケラー。親族の証言を精神安定剤の飲みすぎから来る妄想と決めつけ、ろくに取り合おうとしなかったロキ。ウソ発見器にパスしたのだから無罪で間違いない、と容易く容疑者を釈放した警察。 ケラーの信じられない行動にはゾッとさせられますが、それもまた1つの「偏見」なのだと気づかされます。なぜ被害者側が警察の言うことに従って、唯々諾々と結果を家で待っていなければならないのか?なぜ加害者側の人間が、家族ぐるみで犯罪者扱いされることを恐れ、申し訳なさそうに生きていかなければならないのか? 人はいつの間にか世間の目・道徳・法律などが作りだすイメージの檻に囚われています。固定観念を覆し、その檻から抜け出さない限り、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の描いたパズルを解き明かすことは出来ないでしょう。登場人物の葛藤や苦悶を鮮烈に描きながらも、二転三転の展開を迎えるサスペンスとしても成立した、秀逸な一作です。
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