レビュー
2020年22本目はスターウォーズファンからは一生許されそうにない?ライアン・ジョンソン監督最新作『ナイブズ・アウト』。 ------------------------------------------------------------ 本作のあまりの面白さに私の中のダークフォースは消え失せ、にこやかな表情で映画館を後にすることができました。時代柄似つかわしくない豪勢で荘厳な館、集まった数々のクセある関係者、そして動機は遺産相続…とアガサ・クリスティーの探偵小説をイメージする抜群の雰囲気に冒頭からワクワクが止まりません。 ------------------------------------------------------------ 本作の見どころは巧みな「お約束」と「掟破り」の二面性で観客を揺さぶりながら、決して破綻することのない絶妙なストーリーテリングにあると思います。例えば、事情聴取のシーンでは全員が自らの思惑を隠した「信用できない語り手」と化し、探偵ブノワ・ブランを翻弄していくお決まりのプロットかと思いきや…次の瞬間には驚きの展開が待ち受け、まさかの「◯◯ミステリ」に変貌を遂げます。 また、「名探偵と刃の館の秘密」のサブタイトルにあるように、本編がクローズドサークル内で行われる殺人劇かと思いきや、物語は館の外へと飛び出し更なる広がりを見せるのです。 ------------------------------------------------------------ 二面性と言えば、「古典的」な登場人物の出で立ちや舞台設定に反して、「現代的」な移民問題を取り入れた視点も忘れてはなりません。「裕福」な生活しか送ってきたことのない一族が「貧困層」であるマルタを内心で蔑んでいるのは丸見えで、そんな彼女の逆転劇としても爽快な仕上がりとなっています。危険なビッチ役の『ノック・ノック』とは打って変わって、唯一の良心であるマルタをキュートに演じるアナ・デ・アルマスの存在感が光ります。 ------------------------------------------------------------ 互いに刃を向け合う家族をそのまんまのオブジェや壁に掛けられた銃口の絵画に表現したり、マルタの登場シーンで不吉なステンドグラスをアップにすることでその後の役割を暗示したり、窓から罪の意識と共に放り投げられた野球ボールがたどる道筋が後の皮肉な結果を意味したりと、実は相当に芸が細かいのも特徴。結末を知っていても「2度見」したくなる良作で、今年を代表する1本に間違いありません。
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