レビュー
1つの「映画作品」として非常に完成されていました。ノイタミナ枠での放送ということもありアニメシリーズの頃から他のいわゆる美少女ハーレムラノベ作品とは違う雰囲気が出ていましたが、まさかここまでの劇場版が出来上がるとは思っていなかったです。  特に印象的だったのは倫也と恵が駅のホームで新作ゲームの本読みをする場面。恵が同じ状況にならないとわからないと言い2人の手をアップに写し続けた状態でゆっくりと手を繋いで行きますが、その部分はまさに映画ならではの表現だと思いました。美少女たちの胸や太ももを過ぎるほどエロく描くことにこだわっていた冴えカノですが、劇場版では今まで以上のエロさに加え、人と人との会話を人間の体で表現しているように見えました。「リズと青い鳥」にも目線や上履き、足の動き、体で感情を表すような場面が多かった印象を持ちましたが、それと同じように繊細で丁寧な描写がなされていたと思います。 倫也は今回の映画でクリエイターとして、また1人の男として成長しましたが、それによって傷ついた人たちがいるのも確か。英梨々に関しては幼馴染であり想い人でもある倫也にずっと目を背けられていた(と思われる)上、想いを直接伝えることもなく恵との関係を後押ししていくことになります。それを伝えなければいけなかった詩羽の役回りも非常に胸が痛みました。序盤から英梨々の鈍感さをちらちらと写す部分がありましたが、英梨々が本当に何もわかっていないような瞬間はなかったのではないかと思います。そんな英梨々に「私たちのために全力でなんでもできちゃう人」、主人公倫也の存在に気づかせてしまったシーンは間違いなくこの映画の見どころであり、惹きつけられるものがありました。やはり大西さんの泣き演技は本当に最高で、スクリーンで聞くことができてひとつの夢が叶ったような気持ちでした。傷付けば傷つくほど柏木エリと霞詩子の絆が深まっていくのが皮肉で、切なくて、胸が苦しくなって、それでも彼女たちは才能を持ったままで、選択肢が用意されている。「冴えない彼女の育て方」はとても残酷な物語に踏み込んでいると思いますが、ラストの一本道のシーンには希望が込められていると思いました。英梨々が倫也に小さい頃の想いを聞くシーンでは英梨々の健気さに涙をつられ、また倫也の中にもずっとあった想いが初めて視聴者が共感できる形で表現され、思わず涙を流してしまいました。 才能を持たず普通の女の子としてこの作品に選ばれた加藤恵は、劇場版でまた新しい顔を見せてくれた気がしました。深夜までスカイプに付き合うシーン、誕生日デートの予定がなくなってしまうシーン、夜に廊下で英梨々と電話をするシーン。どの恵も"普通に、普通の恋をする女の子"で、何も特別なことはしていないはずなのに、確かに鮮明に輝いていました。特別な存在であるはずの女の子たちと同じくらい悩み、苦しみ、涙を流しながら恋をして、笑っていました。これまでずっと「なんだかなぁ」だった恵の感情がはっきりとした意志を持って爆発するシーンでは、掴みきれない雰囲気を持っていた恵の真の部分に触れられた気がして、一気に距離が縮まった気がしました。英梨々とのお風呂シーンでも恵が1人の女であることを強く感じ、劇場版では改めて、加藤恵が3次元に寄り添って作られたキャラクターであることを実感します。本当にこの作品にふさわしいメインヒロインだと思います。リアルな存在感を保っていた加藤恵がメインヒロインとして立ち位置を守り続け、どこまでもオタクの妄想であるはずの美少女ハーレムライトノベルの一つのエンドとして正当に迎えられたことに大満足です。
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