
ジュネ
4.0

レ・ミゼラブル
映画 ・ 2019
平均 3.8
2020年51本目は、カンヌの審査員賞を初めとして世界中で非常に高い評価を受けている『レ・ミゼラブル』。 ------------------------------------------------------------ フランスは以前から労働力不足を解消するためもあって、多くの移民を受け入れてきた「人種のるつぼ」です。ユダヤ系、アルジェリア系、中国系、イスラム系、ロマなど多数の民族が1つの国家に暮らしています。加えてフランスは肌の色や宗教の違いによって人に区別を付けない「color-blind」を標榜しており、国勢調査などのデータをたどっても、どの人種が人口の何%を占めるのかが全く分かりません。それだけに、私のイメージするフランスとはあまりに程遠い、エスニックな国家の姿には非常に驚きました。 ------------------------------------------------------------ 区別を付けないと言えば聞こえは良いですが、それはあらゆる民族に対して自らのアイデンティティを捨て去り、フランス国民になれと強要しているに等しい施策でもあります。また、劇中に登場する「バンリュー」と称される郊外の集合住宅地を見れば、治安や雇用の格差が激しいことは一目瞭然でしょう。人々の間には、平等であることを強いられながら、決して平等には扱われないことへの強いフラストレーションがあるわけです。 ------------------------------------------------------------ そんな鬱屈した思いや怒りがあらゆるシーンからほとばしるように滲み出ます。本作の中で徹底した悪役として描かれるのは警官たちですが、ライオンを盗んだイッサを初めとして、登場人物全員が顔を会わせれば互いを互いに敵と決めつけ、人の話も聞かずひたすら罵りいがみ合います。彼らの根底には永きに渡るコミニュケーション不全が横たわっており、解決が容易ではないことを思い知らされました。 ------------------------------------------------------------ 最近の映画はやたらと「証拠映像をSNSで拡散」というネタに走りがちですけど、今回は最早それすらも関係なくなってくるんですね。それって本当に恐ろしいことで、証拠も根拠もなく人を傷つけるのが当然になった今の時代を象徴しているように思えてなりませんでした。