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レビュー
rmh.
4 years ago
ゴッズ・オウン・カントリー
映画 · 2017
見ている最中
ずーっと温めておいた「ゴッズ・オウン・カントリー」をやっと観た。 素晴らしかった…。 もう最初から最後まで、泣きっぱなしだった。 劇中の言葉を借りれば「美しくて寂しい」、でもそこに温かさが加わったお話だった。 ポスターヴィジュアルや冒頭の絶望的すぎる設定から、こんな甘いLoveな話だと予想できなかったので、最後まで観終わってホッとしたというか、良かった…(T-T)❤︎っていう意味でも泣けた。 イギリス郊外の寂れた牧場を一人で切り盛りしなければならないジョンには、病気で身体が不自由な父と年老いた祖母がいる。牧場の仕事も投げやりで、閉塞感で息が詰まりそうな田舎町で人生を送るため、毎晩飲めない酒で泥酔し、欲望の赴くままに行きずりの男性とその場限りのセックスをするしかないような日々だ。 そんな中、羊の出産で人手がいるため、季節労働者のルーマニア人ゲオルゲがやってくる。 このストーリーは一つの大きな構図からなっている。 寂れた牧場同様、全員の心が荒みきっているジョンの家族の元に、この荒んで頑なになったジョンを始め、家族全員の心を溶かし、最終的に牧場があるこの土地を「ゴッズ・オウン・カントリー(神の恵みの地)」であることに気付かせてくれる存在としてゲオルゲが現れるという構図だ。 一家の大黒柱であるにも関わらず、呑んだくれで仕事にも真面目に取り組めないジョン、それまで一家の大黒柱として懸命に牧場を運営してきたが、病気によりやむなく引退に近い形をとっている父、息子は身体が不自由なために頼るは孫しかいないがとにかく大黒柱としては頼りにならないことに気を揉んでいる祖母。 ちなみにジョンの母は、ジョンが幼い頃に家を出ているようだ。 この3人家族は、ゲオルゲが現れるまで決して物理的に触れ合うことをしない。もちろん心理的にも。 ただ、3人の間に愛情がないわけではない気がした。愛情の示し方をしらないで過ごしてしまったため、あんなに荒んだ心で生活するはめになったのではないか。 特にジョンは、ああ見えても他者に対して愛情を持っている描写がいくつかあった。 まずは冒頭の、出産間近の雌牛に対する優しさだ。結局自分の欲望を優先してしまったことから、生まれた子牛は死んでしまうのだが、出産直前の雌牛のお腹や背中をさすって、優しく声を掛けている。 また、あんなにけむたがっている父が倒れたときのジョンの様子からも、父への愛情は確実にあることが読み取れる。 しかし、後者はゲオルゲの影響が大きい。 ゲオルゲがジョンに触れ合うことの喜びと愛情の示し方を教えてからは、家族3人がそれぞれ触れ合う描写が出てくる。 ゲオルゲという人物について分かることは、ルーマニア人の季節労働者であり、過去に祖国で牧場を経営していたがつぶしてしまったこと、母親が英語教師をしていたことくらいしかない。 このようにゲオルゲの背景が分かる描写が少ないため、なぜジョンを受け入れ、寄り添ったのかがあまり明確ではなかった。 予想できるのは、移民という立場によりそれまでの様々な経験上、人の優しさも醜さも知っていて、それを踏まえた上での優しく大きな心を持っている人物なのかもしれない。 また、自分(父?)の牧場を持っていたことや、母親が英語教師であったため英語も流暢に話せることなどから、人並みの生活を送り、教育も受けたと考えることもできる。 そして、あのような優しさでジョンを包み込んで愛せるということは、自身も愛情を受けた経験があるはずである。 少なくともジョンよりは恵まれた家庭に育ったのかもしれない。 次に、大きな構図の中の小さな構図として、まだ大人になりきれていない子供っぽいジョンと、様々な経験により大人であるゲオルゲという二者の対比が挙げられる。 ジョンの言動は終始子供っぽい。 最初、ルーマニア人のゲオルゲを「ジプシー」とバカにし続け、ついにはゲオルゲの堪忍袋の緒が切れ、押し倒されて脅されてしまう。 性衝動もなかなか抑えられず、盛りのついた犬のようである。 他者とのコミュニケーションの取り方も分からず、人の温もりも知らない孤独な子供っぽい青年は、ゲオルゲには保護すべき子羊のように写ったのかもしれない。 一方、ゲオルゲは牧場の仕事に懸命に取り組んでおり、この仕事が好きなようだ。そして家畜たちへも愛情を注いでおり、家畜といえど命としてきちんと尊重している。 死んでしまった子羊の皮を剥ぎ、生き残った子羊に毛皮として着せたシーンでは、死んでしまった子羊の命を無駄にしない姿勢や、子羊を失った母親羊への思いやりを感じた。 また死産かと思われた子羊に懸命に対処して息を吹き返させるシーン、子羊を自分のコートの中に入れてかわいがるシーンなど、ゲオルゲの生き物への愛情を注ぐシーンが多く見られる。 これらのゲオルゲの様子を見ていたジョンは次第に人への愛情の示し方を知ったのかもしれない。子羊に毛皮を着せるシーンでは、やっとジョンとゲオルゲに笑顔が見え、2人の心の距離が縮まったことが分かる。 ちょっと分かりにくかった描写もあった。 ゲオルゲが食卓からチョコレート菓子のティムタムをくすねたり、朝食後の去り際にパンなどを持ち去ったりするシーンがあり、やたら食物を蓄えようとする彼の姿が気になった。 どんな意味があるのかな? 季節労働者の不安定な身分の強調⁇ また、ゲオルゲがインスタント食品に入れていた粉(調味料?)が分からなかった。あれが調味料だとすれば、その後のシーンでジョンに夕食を作り、調味料を足して味を調整してジョンに食べさせている描写があるため、ジョンの味覚のコントロール=ジョンを自分色に染めることの現れ、と解釈できるか。(ちょっとこじつけかも⁈) また、星5つを付けられなかった理由は、バーでのゲオルゲに対する地域の人々の反応と、ラストの整合性がないからだ。 個人的にはあのラストは本当にうれしくて、幸せな気持ちで映画を観終わったんだけど、現実はそう甘くないんじゃないかな…ていう、やたら冷めた目で観てる自分がいた。 だってだいたい同性愛の要素がある映画ってハッピーエンドじゃないから。 すごく、良かったねジョン(T-T)❤︎て思った反面、戸惑いもあったのかもしれない。 でも、とにかく美しいイギリスの田舎の自然描写と少ない台詞、ジョンとゲオルゲの目と目を合わせて心を通わせていく様子など、「美しくて寂しい」、でも温かさのある素敵な作品だった。 ジョンが、ゲオルゲと一緒ならこの地で生きていきたいと思えたように、たった1人の人との出会いで、こんなに人生が変わることもある^_^
このレビューにはネタバレが含まれています
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