レビュー
後の作品に多大な影響を与えてきたフランク・ハーバートのSF大河小説『デューン』の映画化作品。 原作がとにかく壮大かつ複雑かつ重厚な物語らしく(自分は未読)、映像化困難で監督泣かせな小説とされている。1970年代にはアレハンドロ・ホドロフスキーが映像化の権利を買い、10時間以上にも及ぶ超大作を構想するも、挫折。1984年にはデヴィッド・リンチが長編映画化するが、ファイナルカット(最終編集)権をもらえなかったリンチにとっては不本意な出来になり、興行的にも批評的にも失敗に終わった。それから何年もしてパラマウント・ピクチャーズが権利を取得してからは、ピーター・バーグやピエール・モレルに声がかかるも実現せず、結局パラマウントは映画化権を手放してしまう。しかし、その後に映像化権を取得したレジェンダリー・ピクチャーズがドゥニ・ヴィルヌーヴ監督に声をかけ、ついに今回映画化が実現した。 ヴィルヌーヴは大好きな監督の一人で、彼の作品は大体視聴済みだが今のところハズレがない。『灼熱の魂』のような人間ドラマから、『静かなる叫び』『ボーダーライン』のような社会派作品、そして『プリズナーズ』『複製された男』などのミステリーやサスペンス、さらには『メッセージ』『ブレードランナー2049』のSFに至るまで、あらゆるジャンルの作品を常に高水準で生み出し続けている。そんな彼がこの『デューン』を映画化するとなると、必然的に期待値も高くなってしまうわけだが、大方その期待を裏切らない仕上がりだったと思う。 確かに、本作には予想を裏切る展開や衝撃的な結末などはない。また、ヴィルヌーヴ監督の全作品に共通する「サスペンス性」という面でも少し弱いかもしれない。しかし、その部分を補完する、いや、凌駕するほどの圧倒的な映像の力、それがこの映画にはある。『ブレードランナー2049』では都市、郊外、廃墟など場所の移り変わりもあり、その度に色彩も変化していたが、本作は全編を通して「砂漠」である。にも拘わらず、【美しさ】を感じる。普通なら淡泊でつまらない画になりそうな「砂漠」さえも、美しく、そして飽きさせないように撮ってしまう。ここがやはりヴィルヌーヴ監督の凄いところ(ちなみに撮影現場も実際の砂漠で行われ、グリーンバックでの撮影はわずか2シーンのみなんだとか)。それだけでなく、〈声〉や〈予知夢〉といった超能力的な演出、未来的なデザインの衣装や宇宙船、そして巨大なクリーチャー「サンドワーム」の登場などちゃんとSFならではの見所もあり、映像面での満足度がとにかく高い。デヴィッド・リンチ版の美点だった斬新性・カルト性みたいなのはなくなってしまったが、より真っ当かつスタイリッシュなSF映画に仕上がっていると言えるだろう。 でも本作はまだまだ序章に過ぎず、やはり一つの映画としては若干の物足りなさを感じるのも事実。しかし、逆に言えば、盛り上がりに欠ける前半をよくぞここまで面白く仕上げてくれたなぁとも思う。ただ、デヴィッド・リンチ版(おそらく原作も)では後半からどんどん勢いを増していくので(展開が早すぎて盛り上がりきれていなかったけど)、後編が楽しみで仕方ない。今のところ興行収入はいいみたいだし、批評家からも高い評価を受けているようなので、まさかとは思うが、『ライラの冒険』の二の舞にだけはならないでほしいです。 ※追記 続編の製作が正式に決定したみたいですね。2023年に公開らしいです。ひとまず安心です。
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