
Till

クライムズ・オブ・ザ・フューチャー
平均 3.2
『ザ・フライ』や『スキャナーズ』の鬼才デヴィッド・クローネンバーグが手掛けるSF映画。 デヴィッド・クローネンバーグは一番好きな映画監督。そんな彼の8年ぶりの最新作となった本作も心待ちにしていたのだが、なかなか日本公開が決まらず、結局本国カナダで上映されてから1年以上遅れてようやく公開。クローネンバーグは2000年代に入ってからはリアル志向の作品を中心的に撮っていたので(もちろんそれはそれで面白い)、本作は原点回帰となる久々のSFということで相当期待値も上がっていたが、その期待を裏切らない大傑作だった。 まず驚いたのはこの映画がPG12指定だということ。カンヌで退出者が続出したことからも察せられる通り、臓器摘出シーン、男女が傷をつけ合って興奮するシーン、目と口を縫われ全身耳だらけの男が躍るシーンなどグロテスクな描写が満載。それ以前にも単純に女性の裸体が映されるので少なくともR15+以上は確実だと思うのだが、これをPG12(つまり保護者の指導があれば小学生でも観れる)にするとは一体映倫は何を基準に年齢制限を設定しているのだろうか。日本は海外に比べて年齢制限は意外と緩い傾向があるし、別に私はそういうのに厳しく言うつもりもないのだが、本作に関しては普通にR18+レベルなのでPG12はさすがに驚いた。 まあクローネンバーグ作品に過激な描写があるのはいつものことなのだが、御年80歳ながらも全く丸くならずに独自性を追求するスタイルにはリスペクト。そして彼が描き続けてきた「テクノロジーによる身体と精神の変容」というテーマも健在だ。例えば、『ザ・フライ』では物質転送機「テレポッド」によって主人公がハエへと変化してしまう話だし、『ヴィデオドローム』では過激な映像によって主人公の肉体が変容してしまう(幻覚を見る)作品である。同2作に比べれば直接的な変容描写がない『コズモポリス』でさえも、若くして富も名声も手にし、ハイテク機器が設備されているリムジン内で株の売買も定期健診もセックスも済ませてしまう男が人間的な感覚をなくしてしまっている姿が描かれていた。これを踏まえると本作の「進化」というテーマは「テクノロジーによる身体と精神の変容」がかなりストレートに表現されているので、ある意味分かりやすい映画と言えるかもしれない。 例えばペンギンは「飛べない鳥」だと揶揄されるが、ペンギンの祖先は空を飛ぶことができていた。環境の変化に伴って飛ぶ能力を必要としなくなり、それと引き換えに潜水能力が発達したと考えられている。人間も進化を経て今の身体を手に入れたわけだし、「進化」とは言わないが、視覚障害者の聴力が発達するのも環境に適応するための身体の変容だと言えるだろう。このように、生き物は環境の変化に対応するために自身の身体を変容させてきたわけであるが、本作で描かれる近未来世界でもテクノロジーによる環境の変化により人間は痛みの感覚を失っている。そしてそこに現れるのがプラスチックを食べる少年だ。プラスチックごみが引き起こす温室効果ガスの排出や海洋汚染は現代でも大きな問題となっているが、プラスチックを食べる消化器官が進化によって手に入ればこの問題を解決できるのではないか?というこのクローネンバーグならではの着眼点が面白い。しかも脚本自体は20年以上前に書き上げたもので今回ほとんどブラッシュアップすることなく映画化したそうなので、この発想がそれほど前からあったことにも驚き。 そのほか「臓器登録所」や「加速進化症候群」などの独創的すぎるSF設定、体内に臓器を生み出しタトゥーを施して摘出するアートパフォーマンスというイカれた発想、そしてブレックファスター・チェア(結局何の機能があるのかよく分からなかったが笑)やオーキッド・ベッドといった実にクローネンバーグ的なデザイン(ここは美術担当のキャロル・スピアの力が大きい)のガジェットの数々、クローネンバーグらしい要素がふんだんに盛り込まれているのも非常に嬉しい。それにしても映像技術が発達し数々の作品が世に出されてきた現代に、その独創性によってここまで物語的にも映像的にも驚かせてくれる作品はなかなかないだろう。好き嫌いは分かれるにしても、他の作品では絶対に味わえない体験ができることだけは保証します。