
星ゆたか

レスラー
平均 3.6
2022.11.26 体力の限界を痛感しながらも、リングの上でしか生きられないと決めた中年レスラーの生きざまを鮮烈に描いた映画。 ダーレン・アロノフスキー監督(1969年生まれ)が、有名スターの起用を求めるスタッフ側を説得し、ミッキー・ローク(1952年生まれ)の主演にこだわり、彼の見事な名演を導きだした。彼と共演のマリサ・トメイ(1964年生まれ)とが演技賞を受賞した、見所である。 かつては1980年代のブロレスラーの花形として華々しい活躍をしたランデイ・ラム。 今では週末の興行試合に出て、平日はスーパーの裏方の荷物運びの仕事で何とか生きながらえていた。 このプロレス興行の有り様が、映画の前半描かれる。 対戦相手と試合の優劣の立ち位置の確認。見せ場のワザの打ち合わせ。そして客は“流血”を見せる事で、よりエキサイテングするので。 秘かにカミソリの刃を小さく加工しリフトハンドに忍ばせ、タイミングをみはらかって自らの額に切り込み血をながす演出など。 あえて私はプロレス・ボクシングなどの格闘技ファンでないので、正直この前半の展開は演出と分かっていてもシンドイ! 特に試合後の血だらけのレスラーの姿を先に見せ、途中数回のカットバックでどのような状況でいかに傷ついたかを見せる演出は、クドサさえ感じた。試合を盛り上げるために用意されたグッズ。細い鉄条を貼った板、紙幣を相手の額に打ち込むホチキスなど想像しただけでも痛々しい。こういうネタばらしを含めてプロレスファンは嬉しいものなのであろうか。 それより私が気に入ったのは。 仕事優先で関わらなかった子育てですっかり嫌われた一人娘に。 心臓病でこれまでの自身の人生を振り返り、娘に詫びを切々と涙ながらに語る場面。 最初は顔を見せただけで拒絶反応を示していた娘。 主人公の友人で二人の幼い男の子のシングルマザー(マリサ・トメイ)に頼み、娘の好きそうな冬に向けてのピーコートを手土産に、まず凝り固まった父親への恨み感情を和らげた上で。 幼い頃行った海辺の歓楽施設の後地へ散歩しながらの、父から娘への“告解”だ。 あんなに激しい“動”の演技の多いミッキー・ロークが本作品の中でも、ここは海を背景に建物の窓枠に腰掛けながらの、父と娘の心が一瞬溶けあった所での“静”の演技。 思わず“もらい泣き”してしまった。 映画もこのまま彼らがせっかくたどり着いた幸せへの道のりへ進んで欲しいと願いながら、でもやっぱりそうウマクいかないんだろうなという路線で、主人公の失望の人生の対面で最終章の幕まで行く。 分かっていても、セツナイなぁ‥。