
星ゆたか

トニー滝谷
平均 3.3
2023.9.24 市川準監督は生涯で21本の映画を残し。 2008年9月18日外出先で食事中に倒れ、翌日脳内出血で59歳の人生を閉じました。 今回の映画を含み好きな作品は。 「つぐみ」(90)「病院で死ぬということ」(93)「東京兄妹」(95)「トキワ荘の青春」(96)「東京夜曲」(97)などです。 原作は村上春樹(49年京都出身)さんの「レキシントンの幽霊」の中の一編より。 孤独な主人公がやっとその苦しみから癒してくれる女性と結婚できた。 しかし唯一心配だったのが、洋服買いもの依存性で。その妻が大量の洋服を残し亡くなってしまい再び孤独になるといった内容の話。76分の映画です。 監督が村上文学の愛読者で。 本作の『現実にあった事なんだけど遠い記憶の中で存在している』という感じ。 この村上ワールドの感性(風の通り抜ける)の表現の為に。 横浜の高台にセットを作りました。 その作りは光を遮る天井と、側面だけを組み上げ。 吹きっさらしの“ステージ”だったそうです。 実際はその何の隔たりもない風の吹き込むオープンな空間が。 劇中の舞台となる、主人公の自宅の仕事場、結婚式場、更衣室、バーなどとなり。 屋内シーンですら出演者の衣装が、風に吹き抜け心地よい感覚を表現しました。 またその辺が不思議な違和感を感じさせないのは。 そのセットがれっきとした部屋に見えるように。 カメラの枠が巧妙に空間を切り取っているからで。 撮影を担当したのが、世界各地で展覧会を開くほどの名カメラマンの 広川泰士さん。文部科学大臣賞を二度も受けている方の力量です。 また作品全体を、まるで横書きの本のページをめくるように。 左から右へスクロールしていく編集で統一している事。 これは一部の場面だけでなく、全体の映像のリズム。 そしてそれに合わせるかのように、 坂本龍一さんの哀愁を帯びたピアノのメロディが重なりました。 そしてまたナレーションの西島秀俊さんが、小説の朗読感で物語を補助していきます。 この西島秀俊さんの起用について監督は。 『声のトーンに生命力がなく、現実にあった事なんだけど遠い記憶の感じ、自分の声に似てた』と。 それに対し西島秀俊さんは。 『撮影当時は38度を越す高熱で、本当に生命力がなかった』と話してました。 出演はイッセイ尾形(52年生まれ)さんと。 宮沢りえ(73年生まれ)さん。 この二人がそれぞれ二役を演じてます。 イッセイさんは『日本における一人芝居の第一人者』と言われた人で。 この映画では主人公の父親役、ジャズミュージッシャンと本人のイラストレーターの二役。 物語では主人公を産んだ三日後に母親(日本人)が亡くなり。その息子の世話は家政婦に中学生に上がる頃まで、任せっぱなしで。父親は全国の公演の旅暮らし。自然に自分の事は自分でする様に。 名前の〈トニー・滝谷〉の“トニー”は。 父親の外人の知人がその頃、これからは外国名の方がいいと薦められたからつけたのですが。 しかし学校でもそのせいで孤立し、しかも彼の感性が独特だったので。 友人もできなかった。 ただ克明に物を描写する熱中度が抜きん出ていたので美大に進学。 後に機械部品のイラストレーターから、雑誌の表紙の仕事などを次々にこなす内に依頼も増えて、地位を確立してゆく。 一方宮沢りえさん、個人としては波乱万丈の人生の方です。 若い頃の写真集の150万部の大ブレーク(篠山輝信さん撮影による〔サンタフェ〕)その後力士との婚約話を巡っての騒動。 ハワイのサーファーとの結婚(2009年)で1児をもうけるが離婚。良き理解者の母親は(65歳)2014年に死別。 その後森田剛さんと2016年に再婚。 ただ俳優としては「たそがれ清兵衛」(03)「父と暮らせば」(04)「紙の月」(14)「湯を沸かすほどの熱い愛」(16)など魅力たっぷりの演技を残している。 今回の役は洋服を買っても買っても、次々に新しい洋服を見ると人が変わったように、買い続ける依存性の役。よく心に満たされない所があると、そういった症状になる人がいるとの話を聞く。 だから精神医療を受ける必要があったのたが。 この映画でも旦那がそこそこ画業で収入があるから、そして彼が彼女と別れたくないから(孤独になりたくない)文句も言わず。その依存性はとどまる事なく。 しかも夫は広い衣装部屋まで用意してくれる。 自分でも何とかしようと買ったばかりの洋服を、やっと返品できた帰り道で、 突然事故死してしまう。 ここでは画面から彼女の顔が消え、急ブレーキの音。 次の場面では白木の遺骨箱を抱え、主人公が自宅の部屋に戻ってきた映像。 そこで夫の主人公は妻が亡くなったショックを実感する為に。 その大量に残した妻の洋服に合う体型のアシスタントを募集して、毎日着て出勤してもらう契約を持ちかける。 そのために集まった中のピッタシの女性を選ぶ。その役が宮沢さんの二役目。 とりあえず一週間用の洋服を持って帰ってもらい、出勤する段取りに。 しかし自分のやっている事に疑問を持った主人公は。 この話はなかった事にと電話連絡する。 持って帰った洋服は上げますからと。 主人公にしても妻にしても、観客視線では二役なので、まったくよく似た同一人物にしか見えないのだが。 演じている彼らには、少し似ている程度らしく、まったく驚く様子もない設定で物語は進む。 原作と違う所は、亡くなった妻の元カレが、主人公の展覧会に現れ皮肉を言う場面と。 それと一度はアシスタントとしておかしな契約をして断った女性だったが(その後大量の洋服はその手の業者に全部引き取ってもらった。) 再びその彼女を思い返し、電話をかけるラストを加えた所。 これは市川準監督の一環した 『人と人との繋がり合い』というテーマを。 丁寧に愛情を込めて描いてきた所を織り込んだ結果だとの事。 作風が《映画と舞台の中間のような不思議な作品》と称された。 日本より海外で人気。ロカルノ映画祭で評価され。 ロシア、ポルトガル、ドイツ、韓国、オランダ、タイ、アメリカ、カナダなどでも公開されたそうだ。