レビュー
cocoa

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7 months ago

3.5


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2度目のはなればなれ

映画 ・ 2023

平均 3.7

原題は「The Great Escaper」。 「偉大なる脱走者」とか「大脱走兵」などの意味。 イギリス南部、ドーバー海峡に面したブライトンの町。 老夫婦バーニー(マイケル・ケイン)とレネ(グレンダ・ジャクソン)はケアホームで暮らしていた。 2014年の夏、ノルマンディー上陸作戦の70周年記念を祝う式典に申し込みを忘れたバーニー。 一人でケアホームを抜け出してフランスの式典会場を目指す元海兵隊のバーニーを描いた実話ベースのストーリーです。 一人で旅立つイギリスの老紳士の作品は何だか多い。 『君を想ってバスに乗る』、『ハロルド・フライ まさかの旅立ち』など。 今回は90歳のマイケル・ケインの引退作。 さらにグレンダ・ジャクソンの遺作になった作品で、お二方のさすがの演技、堪能しました。 海にたたずむバーニーも、部屋でくつろぐレネも杖を手放せず足元もおぼつかない。 でもその一歩一歩が長い人生を物語っている。 レネは毎日お化粧をし、髪を整え、身なりもきちんとしている。 それを待つバーニーも紳士的でとても規律的な暮らし。 ノルマンディー上陸(Dデイ)記念式典に参加するよう「フランスに行ってらっしゃい」と背中を押すレネだった。 黙ってケアホームを抜け出して港からフェリーに乗るバーニー。 手持ちのお金も乏しく、部屋もなかったバーニーを「ツインだから」と誘ってくれた元空軍のアーサー。 70年が経ってもそれぞれ戦争の傷を背負う退役軍人の心のうちは想像以上に重いものだった。 アーサーだけでなく、敵軍だったドイツの元軍人達との出会い。 オバマ(元)大統領やエリザベス女王も出席する記念式典の切符は元ドイツ軍人に譲り、バーニーとアーサーはバイユーの墓地を訪ねる。 墓碑がたくさん並ぶその地でバーニーが放つ言葉… 「すべて無駄な死だ」と言うのは心からの叫びのようだった。 この地を訪れるまで70年も必要だった、そんな気がします。 バーニーとレネは大戦の時に一度離ればなれになり、今回は二度めの離ればなれ。 それでも必ず帰ってくると信じるレネの強さ。 お二人の軽妙なやり取りも良いし、「私たちは一秒も無駄にしてこなかった」と言い切れるレネの姿は素敵だった。 海岸で傍若無人に振る舞うアホどもの自転車のバルブを引いて空気を抜くシーンも最高。 老夫婦愛だけでなく反戦もしっかり描いた心にじんわりしみる作品でした。 戸田奈津子さんの訳も良かったです。