レビュー
骨太サスペンス。濃厚な人間ドラマ。役者たちの凄まじい演技。力強い画。 すごい作品でした。さすが今村昌平。 実際の事件を元に制作されたこの作品はそりゃもう生々しい。この作品には確かに人間の息吹きが込められている。グロテスクな人間の本性が描かれている。 三國連太郎、緒形拳の画の迫力がすごい。この二人、親子を演じるには歳が近い。14歳しか離れていない。確かに親子には見えない。二人はライバルというか敵同士というか、上手く例えられないが、憎しみ合っているが、切っても切れない絆があって、いがみ合っているが、常にお互いを意識して、お互いを求めている。殺したいくらい憎い相手なのに、その手を上げられず、その手を無関係な者に振り降ろしてしまう。複雑に絡み合い、捻れててしまったもどかしい親子関係がこの事件を生んでしまったんだろう。 妻の加津子がまた余計に話をややこしくしている。もし、出所後に加津子と父との関係性がまともであり、普通の生活を営むことができれば、このような悲劇が起きることもなかったのではないか。親子の関係が決定的に歪んでしまったのは、これが元だ。鎮雄は彼女をつけ離すべきだった。それをしなかったのは、息子が帰って来たときの居場所を守りたかったから加津子を遠退けなかったのか、まぁ、遠退けたところで加津子は鎮雄を追いかけただろうけど。クリスチャンというのも関係したのだろうか。本当のとこはわからないが、加津子と鎮雄の間に何もなかったとはいまいち信じがたい。 果たして、歪んでしまった榎津は怪物になってしまった。でも、最後にあの親子を殺してしまったのは、自分でも理由がよくわからないと言っていた。自暴自棄になっていたのだろう。本当は彼女と静かに暮らしたかったんだと思う。しかし、それは当然叶うはずもなく、いつ終わるともしれないこの生活に終止符をうちたかったのではなかろうか。幸せという楔を自ら断つしかなかった。その方法は殺害しかなかった。何度も人を手にかけた彼には、人間関係を立ち切る手っ取り早い方法は、それしか思い付かなかったんじゃないかと思う。普通であれば、その発想は出てこないし、思い付いても実行することはないが、殺すことを覚えてしまった彼は人殺しのハードルが低くなってしまっている。最早、彼は怪物だ。都合が悪くなると、人を簡単に殺めてしまう。そうなると、人間社会では生きていけない。 なんだかとてももどかしい。怪物になってしまったのは、元々の素養もあるが、様々な要因がある。それを噛み砕いていくと、残るのは傷だらけの悲しい男だ。ただ少しボタンをかけ違えただけなのに。彼をいち早く正してあげられる人がいれば、このような悲劇が起きることもなかったのに。
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