レビュー
HRK

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8 years ago

3.0


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四月の永い夢

映画 ・ 2018

平均 3.5

中川龍太郎は、東京国際映画祭に出品された『愛の小さな歴史』『走れ、絶望に追いつかれない速さで』は鑑賞済みだが、どちらも好きな映画ではない。『愛の小さな歴史』に関しては端的に面白くなかった。『走れ、絶望に追いつかれない速さで』も(監督の実体験に基づくとのことだったのでこういう言い草は失礼なのだろうが)ありふれた筋書で、ところどころあざとさのようなものが感じられて正直がっかりした記憶がある。一方で、全く記憶に残らなかったと言うと嘘になる。2本とも、失われた過去を乗り越えられない若者が今を生きるために過去に向き合う話だ。この筋書自体はそれほど嫌いではない。特に、喪失を乗り越えなければならないものとして描くのではなく、一方でそこに耽溺すればよいものでもなく、向き合うことで今をより良く生きることができる源泉として描く姿勢は印象に強く残っていた。従って、前向きな言い方をすれば「もう少し洗練されれば良いのに」というのが彼の映画について思っていたことだ。そして、これこそがトレーラーを観た時点で、本作に期待したことだ(これは実際よくできたトレーラーだと思う)主演の朝倉あきがただ一人写るポスターも印象的で、これなら観に行こうと決めた。 結果として、『四月の永い夢』も Not For Me だった。台詞やナレーションによって状況や場面に関する情報を説明されるのは苦手。設定や演出のひとつひとつも自分の感覚といちいちずれていて、萎えることも多かった。これらについては、いちいち示すのが困難なほどに多いし、それをしたところであまり生産的ではないので、腹いせか、いちゃもんということで。 最大の見せ場で一瞬「?」が頭に浮かんでしまって、しばらく置いてきぼりを食らったのが致命的だった。主人公・初海は元カレの死を引きずっている(この点に関する情報は、そのショックから教師の職を退いていること以上には与えられない)。終盤、元カレの実家にやってきた初海は、彼の母親と二人で彼のアルバムを眺めている時に、突然「実は彼が死ぬ四か月前に別れているのです」と告白して涙を流す。彼女の時間が恋人を失った時点から動き始めることからも、これこそこの映画にとってクライマックスである。「恋人として死を引きずっている」という状態から解かれたいという意図から出た行動であることは分かるが、なぜその台詞の内容が死ぬ時まで恋人だったわけではないと誰にも言えなかったことなのかは手持ちの情報から十分に推測できていない。単純に与えられている情報が少なすぎると思う。しかし、同じく初見時に終盤全く理解できなかった『殯の森』で、よくよく振り返ってみると与えられている少ない情報を上手く組み立てればかなりの程度説明がつくという経験をしているので、どこか努力不足と言われているようでこの手のもどかしさが一番困る。 印象に残っているのは、冒頭で喪服を着て主人公が佇みナレーションが入る演出が終盤で反復される点。冒頭の叙情的なナレーションは苦手(映画でやることではない気がするから)であったが、その分終盤過去と向き合い終わった彼女が同じ構図で彼に宛てた手紙を語り始める終盤は魅力的で、冒頭でナレーションを使う意味があったとハッとさせられて面白かった。この点、何故ここでカットを細かく変えたのか私にはよく分からない。冒頭同様の構成でどっしりと見せた方が好ましかったのではないか。 初海に想いを寄せる男性が初海に教えてもらった曲をリクエストして、初海がそれをラジオできいて笑う場面でこの映画は幕を閉じる。エンドロールが映画の続きになっている(つまり、初海のためにかけられた音楽を初海が新しい恋を感じながら聴いているということを意識しながら聴かなければならない)という演出は無難だが好み。彼女が「一人で音楽を聴いていると沈んでしまうこともあるが、ラジオで聴くと同じ曲でも勇気づけられる」というようなことを言っていたことを踏まえて、ラジオを使ってこれからきっと新しい恋に踏み出すであろう二人を結び付ける演出は素敵だなと思った。 本作はモスクワ映画祭で2部門受賞。日本映画としては金賞に輝いた『私の男』以来の受賞。「国際的に評価を受けている日本人監督」であることは間違いなく、「世界的に評価されている映画を心から楽しめちゃうオレ」を演じたい気持ちもあるが、力不足なので諦めざるを得ない。詩人とは相性が良くないということにしておこう。この監督の映画は引き続きあまり期待せずにフォローする。 完全に個人的な話だが、直接は存じ上げないけれど長年心に留めている方が携わっていらっしゃった。やや渋い顔をしてスタッフロールを眺めていたものだから、ご芳名が目に入って椅子から転げ落ちそうになった。作品に触れる時それは作り手の手を離れたものとして扱い素直に感想を持つべきだけれども、これまた作品とは別に映画の向こうには人間がいることを忘れてはならないのかもしれない。 さて、以下自分語り。2018年はそもそも映画鑑賞をしている時間を作ることができず、殆ど新作を観ていない。本命は、昨年のベストに同監督の作品を加えた『フロリダ・プロジェクト』、昨年のベルリンを制した『心と体と』、数年前から高い評判を集めているホン・サンスの新作、今年のカンヌに出品された『寝ても覚めても』。是枝映画は何となく敬遠し続けてきたのだが、このままだとパルム・ドールもあり得る展開(ここ数年のカンヌは星取表を完全に裏切る受賞結果なのでアレだが)なので、観に行かざるを得ないかも知れない。旧作に関しては、ベロッキオの『結婚演出家』が特別上映でかかるときいて興味を持っている。DVD化される『かくも長き不在』も楽しみ。『モーリス』も予告編を観たら思ったより惹かれたので観に行くかも。mubiにブリュノ・デュモンとシャンタル・アケルマンが入っていたので、できれば時間を見つけて取り組みたいところ。 『サファリ』、『ファントム・スレッド』、『ラブレス』、『ナチュラル・ウーマン』、『彼の見つめる先に』、ヨアキム・トリアーの新作、友人たちの評判が頗る良い『リズと青い鳥』は、わざわざこの繁忙期に時間を作るほどでもなさそうなのでDVD落ち後もしばらく放置する予定。