
星ゆたか

スウィング・キッズ
平均 3.8
2022.5 冒頭に白黒のニュースフィルムが流される。1950年当時の朝鮮半島の南北戦争実態が示された、アメリカのアナウンサーによる実写映像。 北朝鮮の侵攻に押され気味だった韓国にアメリカ軍が、そして逆転したかと思われたその北朝鮮には、中国共産軍が加わり、超大国の代理戦争化して予測不能の趣にという内容。 さらにその戦いの後、北朝鮮と中国共産軍の約14万人の捕虜は、朝鮮半島最南端の、巨済(コジェ)島の大規模収容所に移送された。当時のジュネーブ協定の人権保護に基づき、職業訓練や趣味などの自由が保障された捕虜は、軍人や民間人より充実した生活を送り、終戦後も南に残留したいという自由送還者が多数発生した。これに対し全員送還を主張する、共産思想の捕虜は武装組織を結成し、南に残留しようとする捕虜を殺りくした。これは巨済島・第3の戦争と呼ばれた。 一方収容所を管轄した米軍は、武力鎮座を強行し、共産思想の捕虜の数十名の死者や重傷者を出す事態となった。これに寄り国際社会から批判された米国は、収容所の所長を交代し、信頼回復の手段に出た。 それが朝鮮人と中国人による四名、米国黒人下士官、元ブロードウェイ・タップダンサーによる、タップダンス・ショーの敢行計画だった。 まっ、そんなお家事情の上で繰り広げられる、特に最初の練習光景は、まさに珍妙で奇抜。タップというよりカンフー混じりの舞踊、武術の様相。時にC・G映像も加え、コミカルな味つけで、これは2001年の「少林サッカー」(香港・中国映画)路線の作品狙い?などと勘ぐったりする。中盤以降どの方向へ向かうのか、と思いきや。 やはり冒頭の舞台背景の状況が、ジワジワと暗礁の物語に重低音の影を落としてくる。四人のメンバーの中では、一番アメリカ寄りの資本主義と朝鮮の共産思想の狭間にいるギス。その兄や同郷の友などの、共産思想の捕虜の武装組織の英雄が、収容所に移送されて来た辺りから、何やら不穏な雰囲気が漂ってくる。 米国の記者クラブの面々の前で披露するクリスマスの余興のタップダンスショー。四人それぞれの思いを秘めながら繰り広げられた。 魔法の靴、タップシューズを履けば。 戦争も食べる心配も悲惨なことも、全部消えると信じ踊り出す。これが成功すれば、アメリカのカーネギーホールの出演も夢じゃない。シヨーのタイトルは、〔くそ、イデオロギー〕 アメリカが、中国が、ソビエトが、勝手に思想城壁を作り、国を人を分けて争わせ、殺し合う世界。 最後の凄絶な幕ひきは、どこかで予想しつつも、あまりに惨たらしい。 映画的には前半・中盤・後半と、アメリカ軍と捕虜の東洋人の掛け合いに、脚本の練り合わせの工夫が今一つ欲しかったかな。(何となくダレた感じがする所がある。) しかし何といっても、おなじみのスウィングジャズの名曲に、紛れもなく心も体もご機嫌な気分になる瞬間もある。 それだけに、戦時下の世界の芸能は、平和な時のそれとはやはり違う。そんな思いが、映画を見終わった後、音楽に浸りきれない悲しさになった。 あの2004年の邦画「スウィングガールズ」(矢口史精監督) 平安な日本の女子高生の演奏で聞いて嬉しくなったこの同じ曲は、こうも違うものだろうか。