レビュー
星ゆたか

星ゆたか

3 years ago

4.0


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リアリティのダンス

映画 ・ 2013

平均 3.5

2023.5.14 アレハンドロ・ホドロフスキー監督(1929年チリ出身)が84歳の時に。 自らの自伝を原作に23年ぶりに発表し話題になった幻想的映像詩。 (キネマ旬報2014年ベスト7位) 生誕地チリの荒涼とした山肌が海岸線に迫る、トコピーシャという港町を舞台に。 波乱万丈の人生模様の幼少時代を。 オリジナルティ溢れる映像で紡ぎ出す。 監督の生まれた1929年は世界大恐慌の年だとかで。 チリでも労働者の7割が失業したという。 1927年に就任したカルロス・イバニエス政権は財政破綻し、31年に崩壊しゼネストで追われ亡命、32年にはアレサンドリ政権による「社会主義共和国」が成立。 この映画では38年に人民戦線ペドロ・アギーレ・セルダ大統領に代わる辺りまでの時代を扱っているようだ。 物語の中で父親はこのイバニエスの命を狙っての旅に出て、数奇な運命を引き寄せることに。 劇中に貧しい様相のボロ傘を差す黒服姿の一群が町に訪れる様子。 ある者は伝染病を抱え、町に入所するのを拒まれる人達で。恐慌で一攫千金を狙って銅山に入ったが、上手くいかず逃れて来た人達でもあったらしい。 町の中にはその銅山のダイナマイト発掘で、手足を亡くした者も。 この映画はそういった現実の生々しいリアリズムの描写(後半の父親がナチの拷問を受ける場面など特に)と。 空想的で抽象的なファンタジーが渾然一体となっている辺りに、とても目を離されず、この映画の感性に釘付けにされた。 ギレルモ・デル・トロ監督の「パンズ・ラビリンス」(06)の感性に通じるか。 そしてまず映画を見初めて、一番印象的なのは。 画面の色調、彩度、明るさ、鮮やかさがとても美しく、デジタル映像時代にふさわしく魅力的だという所。 普通主人公の懐古思考の物語を映画にしようとする時。 場合によっては古いアルバムをめくるかのように。 淡いセピア色調とか、古さを強調するために白黒調などにする事も少なくない。 けれどこの映画の場合、鮮やかでモダンな原色の色合いで。 クッキリ、スッキリ見せていて。 物語の時代は新しくないのだが、時を超越した現代でも通じるカラフルさを感じさせてくれ。 現実と空想が交錯し、幻想的な感触をさらに効果良く増強している。 物語の家族はまず権威的で暴力で息子を教え込む父親。 ソビエトのスターリンを尊敬する共産党員。 一方オペラ歌手に成りたかった母親は。 息子を自身の父親の生まれ変わりだと信じ込んでいて、いつも変わらぬ慈愛で抱きしめ包み込む。 だがその息子はソビエト系ユダヤ人であるが故に学校でいじめられてもいる。 そんな三人からなる。 その少年時代の恐怖と心の痛みを寓話的な作品にするために。 監督自身の出演では(この映画のポスターにもその姿)。 少年の守護神のような存在で、少年の背後から優しく語り、守り指導するかのようにたたずむ。 また監督の実の子供である俳優を三人出演させてもいる。 長男のブロンティス氏(62年生まれ)を少年の父親役に。 その他次男のクリストル氏(64年生まれ)、五男のアタン氏(79年生まれ)とそれぞれ。父親と少年とのカラミの役柄で。ちなみに三男にあたる息子さんは95年に事故死で亡くしているらしい。 監督は大学でフロイト心理学などを学んでいて。 そのフロイトの教義の。 『夢の素材は無意識に選択された記憶の断片で。それが統合され様々な出来事として、一つの物語に連結している。夢は無意識による自己表現である。』辺りがこの作品の描写に反映されているみたいだ。 1945年の「天井桟敷の人々」(マルセル・カルネ監督)に感銘を受けて単身パリに渡仏している。 この時一旦故郷の両親とはある種の決別をしたと語っている。 しかし心の中ではやはり親を捨てきれるものでもなく。 この映画の制作もその生まれ故郷のトコピーシャを訪れ。 焼失した実家も再建したという話だ。 母親役のパメラ・フローレンスさんは、実際のオペラ歌手で。 本作でも全編セリフを歌唱で表現。 これはオペラ歌手に成りたかったが、成れなかった母親への思いを込めての演出とのこと。 イタリアのフェデリコ・フェリーニ監督(1920~1993)の好きだと言われるその豊満なバストの母親の女性容姿や。 映画の内容が監督の少年時代の懐古といった共通の所から。 1973年の「フェリーニのアマルコルド」を引き合いに出す向きもある。 どちらもそれぞれの良さ、持ち味でひけをとらない。 ファシズム政権下の監督の少年時代の回想を、幻想的なファンタジーで語っている点は両作品同じだが。 叙情的なノスタルジックにより浸れるのがフェリーニ映画だとすれば。 メリハリの効いた辛辣なピリカラな南米料理に舌鼓なのが、ホドロスキー作品って所だろうか。