レビュー
林芙美子の小説を、成瀬巳喜男監督が映画化した1955年の日本映画 ・ 戦時中、赴任先のインドシナで、妻ある男・富岡と出会い愛し合ったゆき子。終戦後、妻と別れて君を待っている、との言葉を信じ富岡のもとを訪れたゆき子だったが、富岡はいつまでたっても態度をはっきりさせようとしない。途方に暮れたゆき子は外国人の愛人となり、富岡のもとを去るのだったが…。 ・ 不世出の作家・林芙美子の原作を、脚色したのは50年代最高の脚本家と言われた水木洋子。その物語を監督しているのは、“メロドロマの巨匠”、“第4の巨匠”こと成瀬巳喜男。さらに成瀬組と言われた最高のスタッフが終結したんだから、この作品が成瀬作品最高傑作と言われるのも当然だろう。 ・ まさに浮雲のように、ふっついては別れる男女。どうしようもない自堕落な富岡と、何度別れても富岡のもとに戻ってしまうゆき子。直接的には描かれていないが、2人が別れられない理由を察すると生々しい。音楽の使い方は、まさにメロドロマ。50年代という時代に、ここまで男と女を生々しく描いていることに驚いた。 ・ 巨匠には最高の俳優が付き物。黒澤明に三船敏郎。小津安二郎に原節子。溝口健二に田中絹代。そして、成瀬巳喜男に高峰秀子だ。原や田中とは違った気の強そうな表情やイキイキとした表情は、昭和の大スターなだけある。この作品での演技は完璧とは言えないけど、それを補う魅力の持ち主。 ・ 相手役の富岡を演じた森雅之。出演作が米国アカデミー賞、世界三大映画祭のすべてで受賞しているという、名実共に日本映画史上最高の俳優と呼ばれる俳優だ。理知的な役のイメージがあったから、この作品の自堕落な富岡を演じているのには驚いた。富岡があまりにも酷いから笑ってしまった。本当にすごい俳優だ。 ・ この作品は、ある程度、恋愛などの人生経験を積んでから観ないと理解できないかもしれない。若い時に観ても、面白さが解らなかったと思う。映画というのは、出合うべきタイミングというものがある。この作品はいま観るべき作品だった。私なら大丈夫という人は、成瀬巳喜男の傑作に挑戦してほしい。
いいね 1コメント 0


    • 出典
    • サービス利用規約
    • プライバシーポリシー
    • 会社案内
    • © 2024 by WATCHA, Inc. All rights reserved.