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天才ヴァイオリニストと消えた旋律
平均 3.4
原題は「The Song of Names」。 原題の意味を作中で知ると、邦題がいかにも安易に思えて残念。 1938年のロンドン。 裕福な暮らしをする9歳のマーティンの屋敷にヴァイオリンの才能溢れる同世代の少年ドヴィドルがやってくる。 ドヴィドルはポーランド系ユダヤ人。 マーティンの父親はドヴィドルを預かり息子のように世話をした。 そして1951年のロンドン。 国際舞台のデビューの舞台に現れなかったドヴィドル・ラパポート。 彼はなぜ演奏会場に来なかったのか… そんなストーリー。 天才的ヴァイオリニストのドヴィドル。 いつも人を食ったように尊大で上から目線の鼻持ちならない態度に見えた。 マーティンと兄弟のように育った…とあるが、マーティンは父親からの愛情を奪われ複雑だったように感じた。 デビューの演奏会をすっぽかした21歳のドヴィドルに何があったのかは後にわかるが、演奏会の損失を全て被って失意の中 亡くなったマーティンの父親。 それを見ていた息子のマーティンの苦しみ、想像すると辛かったと思う。 35年後、ドヴィドル(クライヴ・オーウェン)を探し出したマーティン(ティム・ロス)。 車の中でドヴィドルを殴った気持ちが良くわかる。 「父がどんな思いでいたかわかるか?」と…。 あちこちを探し回るちょっとくたびれたティム・ロスの雰囲気が好き。 さて、原題の持つ意味ですが…。 第二次大戦時、ポーランドでも多くのユダヤ人が収容所に入れられた。 この悲惨なホロコーストをやっとの思いで生き延びたユダヤ教徒により、犠牲者の名前を歌にして覚えて、後世まで残そうとした「口頭伝承」の事。 悲しい旋律で伝えられた亡くなった人々の名前…。 ポーランドに残してきたドヴィドルの家族の名前を彼は聞くことになったのです。 (ユダヤ教の立法…『トーラー』も口伝えで継承してきた彼らのドキュメントを観たことがあるが、生き残る意味の大きさを改めて感じたシーンでした。) ここまでは作品自体の重みを感じたし、良かったのだけど。 最後に明かされるマーティンの妻の告白で一気に気持ちが冷めたのも事実。 何だかマーティンもマーティンの父親も浮かばれない。 少なくとも長い時間養ってもらい、名器「ニコロ・ガリアーノ」のヴァイオリンを買ってもらったドヴィドル、勝手すぎませんか! 35年後に「恩を返した」とコンサートを開いたドヴィドル・ラパポート。 確かに彼の人生は辛かったかも知れないが、それはそれ。 身勝手な天才ヴァイオリニストだったと言うしかない。 私は完全にティム・ロスに同情してしまう、そんな作品でした。