レビュー
2020年78本目は、同名の戯曲を原作に、底の知れない優等生が巻き起こす顛末を描く『ルース・エドガー』。 ------------------------------------------------------------ 周囲から押し付けられた理想を演じきることに嫌気がさしているルースと、マイノリティに対して常に完璧であることを求めるウィルソンの対立を主軸に映画は進んでいきますが、これまで白人と黒人の間で描かれてきた「先入観」や「偏見」にまつわる議論が、本作では何故か「黒人同士」の間で激化していきます。 ------------------------------------------------------------ ウィルソンもかつてはルースのように自由や平等を求めた時代があったのかもしれません。しかし今の彼女にとってルースの行動や発言は青臭い理想論にすぎず、その自由や平等すらも白人によって作られる「まがい物」に過ぎないわけです。この2人の間には同じく支配される側の不満がありながら、生きてきた時代によってまるで捉え方が違う、「世代間格差」という大きな壁が横たわっています。 ------------------------------------------------------------ 一方、両者を支配してきた側の白人であるルースの母親エイミーにとって、息子を理想的な人間像に仕立てあげたのは、それこそ奴隷制の時代から続く「有色人種の教化」という歴史の繰り返しに過ぎません。ところが本作では2人を「血の繋がらない親子」として描くことで、単なる支配・被支配では済まされない愛憎渦巻く関係性に仕立てています。 ------------------------------------------------------------ きっかけは「ルースの提出したレポート」それだけだったのに、三者三様の視点から見ることで全く違う物語が顔を覗かせ、アメリカ社会が根差す構造の問題を鋭くえぐってみせます。最初から最後まで見ている側に考える余地を与え続け一時も気が休まることはありませんが、本年度屈指の魅力を放つ傑作です。
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