
てっぺい

生きる LIVING
平均 3.7
2023年03月31日に見ました。
【リメイク成功映画】 黒澤明の名作をイギリス映画にリメイク。絶妙にリスペクトし、絶対にアレンジを加え、素晴らしい感動作に昇華した一本。アカデミー脚色賞ノミネートも納得の出来。 ◆トリビア ○ 第95回アカデミー賞では、惜しくも受賞を逃したもののビル・ナイが主演男優賞に、そしてカズオ・イシグロが脚色賞にノミネートされた。(https://moviewalker.jp/news/article/1128222/) サンダンス映画祭やヴェネチア国際映画祭など世界各地の映画祭で上映され大絶賛を獲得。第35回東京国際映画祭ではクロージング作品として上映された。(https://moviewalker.jp/news/article/1128146/) 〇ビル・ナイは73歳にして、初めてアカデミー賞主演男優賞ノミネート。授賞式には誰をエスコートするのか注目を集めていたが、彼がレッドカーペットに同伴したのはなんとシルバニアファミリーのうさぎだったという茶目っ気さ。本作で脚本を担当したカズオ・イシグロは主人公ウィリアムズ役を「ユーモアのセンス、皮肉、ストイックさ、そして内面にメランコリーのようなものを持っている」とビル・ナイ一択で指名した。(https://natalie.mu/eiga/pp/ikiru-living-movie) 〇「生きる」で有名な「いのち短し、恋せよ乙女」の歌詞で始まる「ゴンドラの唄」は、今作でビル・ナイが歌う「The Rowan Tree」(スコットランドの伝統楽曲)にリメイク。ビルが『Mr.ゾンビ』になる前の妻の記憶がある事を示唆したとイシグロは言う。実はその曲は、イシグロのスコットランド人の妻から教わった。(https://eiga.com/extra/hosoki/21/) ○ イシグロは幼少期にイギリスのテレビで『生きる』を観て、強い衝撃を受け深くリスペクト。「私が日本の背景を持つということもありますが、それとは関係なく、私は常にこの映画のメッセージに影響を受けて生きてきた」と語る。(https://jocr.jp/raditopi/2023/03/29/493922/) 〇本作製作は、カズオ・イシグロによるプロデューサーへの「生きる」リメイク提案から始まった。以前食事の場でビル・ナイとも下話をし、黒澤明の権利者ともイシグロの存在のおかげで合意に至ったという。(https://ikiru-living-movie.jp/) 脚本は、“ビル・ナイが演じる『生きる』の新しい映画”として、イシグロによる当て書き。ビルの本名のファーストネームをオマージュしてウィリアムズと名付けた。(https://www.tjapan.jp/entertainment/17613808) 〇本作の尺は103分と、オリジナル版の143分から40分も短くなっているが、内容はオリジナルにほぼ忠実。(https://moviewalker.jp/news/article/1128891/) ○ 本作は黒澤版「生きる」のリメイクだが、その『生きる』も実はトルストイによる短編小説の翻案。(https://www.newsweekjapan.jp/worldvoice/lusher/2023/03/living.php) ○ 以前、トム・ハンクス主演での“アメリカ版リメイク”の話があったが、実現しなかった。(https://eiga.com/extra/hosoki/21/) ◆概要 黒澤明「生きる」のリメイク作品。 【脚本】 カズオ・イシグロ(2017年にノーベル文学賞を受賞。1954年に日本の長崎で生まれ、5歳の時に両親とイギリスに移住) 【監督】 「Beauty」オリヴァー・ハーマナス 【出演】 「ラブ・アクチュアリー」ビル・ナイ 「セックス・エデュケーション」エイミー・ルー・ウッド 「パーティで女の子に話しかけるには」アレックス・シャープ 【公開】2023年3月31日 【上映時間】103分 ◆ストーリー 1953年、第2次世界大戦後のロンドン。仕事一筋に生きてきた公務員ウィリアムズは、自分の人生を空虚で無意味なものと感じていた。そんなある日、彼はガンに冒されていることがわかり、医師から余命半年と宣告される。手遅れになる前に充実した人生を手に入れたいと考えたウィリアムズは、仕事を放棄し、海辺のリゾート地で酒を飲んで馬鹿騒ぎするも満たされない。ロンドンへ戻った彼はかつての部下マーガレットと再会し、バイタリティに溢れる彼女と過ごす中で、自分も新しい一歩を踏み出すことを決意する。 ◆ ◆以下ネタバレ ◆ ◆リメイク 各登場人物、ストーリーはもちろん、ウィリアムズの死を境に前後半が分かれる構成、帽子のくだりや、感化されたはずの次課長も結局お役所人間に戻る現実、細かくは息子が読む新聞に至るまで、元作にとても忠実。ウサギの玩具まで登場する細やかさに、元作へのリスペクトが感じられる。大きく違ったのは主人公が歌う歌と、オリジナルでの木村にあたるウェイクリングが、通して軸となっており、彼の目線で描かれていた事。その事で、より見やすく、若者にもメッセージが届きやすくなっていたと思えるし、マーガレットとのちょっとしたロマンスにも繋がったと思う。違和感のない一つのイギリス映画だったし、オリジナルを見ている側にとっても絶妙にポイントを外さない。日本人としてそれは誇りでもあるし、本作はリメイクの成功例だと言えると思う。 ◆演出 冒頭から当時の原風景が映し出され、出演者のテロップが乗り、サイズもボックス式になる事で、昔の映画の再上映を見るかのような錯覚の世界に。エンドロールで通常のサイズに戻り、これが現代で作った過去の映画だと引き戻されるような不思議な感覚も。細かく言えば、婦人たちの陳情書が各課でたらい回しになる映像のトランジションが原作と同じなのもニヤリ。公園のブランコが真ん中の物だけ揺れていたラストカットは、そのブランコで幸せそうに「ナナカマドの木」を歌っているウィリアムズが見えるよう。オリジナルでは渡邊のシルエットが見えた直接的な表現も、本作では総じて現代人に見やすくアレンジされた演出になっていた。 ◆優しい オリジナルでは、病を告白する渡邊を遮るように息子が畳み掛けるシーンが、本作では息子が中々切り出せない。オリジナルで葬式に来なかった小田切は、葬式の場での彼女を通じて息子が父に懺悔するという重要なキーパーソンに。葬式ではなく公園で警官が登場する構成の変更もなるほどと思いつつ、“声をかけられなかった”彼の告白のシーンは到底オリジナルより涙腺をくすぐってきた。小田切が本気で嫌がっていた“老いらくの恋”も、マーガレットがウィリアムズの告白に涙ながらに耳を傾けていたのも印象的。ボロボロと涙を落とす渡邊に対して、ビル・ナイ流で“涙を見せない涙”の演技も素晴らしかった。総じて映画のほぼ全ての登場人物が優しく変更されており、オリジナルに感じたどこかしらの違和感が解消されていた。まさに絶妙にリスペクトし絶妙にアレンジした、一つの優しい映画に仕上がっていたと思う。 ◆関連作品 「生きる」('52) 本作のリメイク元の作品。黒澤明監督の代表作の一つ。死期を悟った男の命の物語。DMMTVレンタル可。 引用元 https://eiga.com/amp/movie/96311/