レビュー
このビリー・ワイルダー監督の映画「第十七捕虜収容所」は、第二次世界大戦末期のドイツ、アメリカ空軍の捕虜が集められた第十七捕虜収容所という、閉鎖的状況での人間の葛藤と、脱走に成功するまでの苦悩を描いた、収容所もののはしりとなった作品で、主演のウィリアム・ホールデンがアカデミー主演男優賞を受賞しましたね。 この"収容所もの"というと、何か暗くて重いというイメージがあるものです。 だが、この映画は暗さはありますが、決して重くはない。 ストーリーは、スリリングに展開するし、男ばかりの生活という特殊な環境の中にあって、登場人物たちは、かなり誇張して描かれており、時にそれは道化的にもなって滑稽ですらあるんですね。 数多い登場人物の中で最も面白いのが、セフトン軍曹(ウィリアム・ホールデン)という男。 この男はなかなか抜け目がなくて、収容所生活をできるだけ楽しくしようと、人造酒を作ったり、望遠鏡を作ったりしている。 その望遠鏡で女兵士のシラミ取り入浴をのぞき見るシーンは、爆笑ものだ。 大きなカバンには、収容所にありそうもないものが、いっぱい詰まっており、煙草などで闇商売をやっているんですね。 "そんなバカな----"といったようなことが、そう思わせずに説得力を持って描かれているあたりは、さすがビリー・ワイルダー監督の職人芸だと思いますね。 この"収容所貴族"とでも言うべき男が、脱走者が捕らえられ、銃殺されてスパイがいるとの噂が流れ、疑われ出したところから、映画はちょっと趣を変えて、犯人探しから、それに続く脱走劇へとスリルとサスペンスに満ちたものになっていく。 ノンシャランとしていた男が、リンチされそうになるという状況はあるにしても、スパイ探しをはじめ、果ては窮地に立たされたダンバー中尉を救うため、収容所脱走という大勝負に出るというのは、あまりにも突然の変貌ゆえに、これまた"そんなバカな----"となるところなのだが、これはウィリアム・ホールデンの絶妙の演技によって納得させられてしまうんですね。 この映画は、実体験に基づいて書かれた戯曲の映画化作品ですが、収容所経験のない者には、信じられないようなことが多いんですね。 それを、ビリー・ワイルダー監督のまさに名人芸ともいえる演出と、ウィリアム・ホールデンの巧みな演技が、見事にカバーして見せてくれる。 「帰らざる河」や「栄光への脱出」のオットー・プレミンジャー監督が、収容所長役で登場して、なかなかの役者ぶりを披露してくれるあたりも楽しいし、とにかく、ウェルメイドな作品だと思いますね。
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