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潜水艦クルスクの生存者たち
平均 3.2
原題は「Kursk」。 邦題はあまりにも救いがないし、希望を持ったらいけない。 2000年にロシアで実際にあった原子力潜水艦事故を描いた作品。 トマス・ヴィンターベア監督の覚悟を感じられる問題作でした。 ロシア海軍の上官ミハイル(マティアス・スーナールツ)は仲間の結婚式の準備で忙しくしていた。 当時、軍からの給料が届かず、ミハイルは腕時計を差し出し、結婚式のウォッカ代などに充てる。 (潜水艦の乗組員なのに腕時計がないのはあり得ないが仲間のため、と判断) 結婚式で楽しく盛り上がる仲間達の描写にもどこか不穏さを感じるのはこちらが事故を知っているからか…。 さて、ロシア海軍の原潜クルスクは北極海での大演習に向かうが、魚雷が高温になり大爆発。 さらに二度目の爆発が起き、118人の乗組員の多くが爆死。 残った23人は被害の少ない最後尾に逃げ、上官ミハイルの指示の元、何とか生き延びようとする……そんなストーリー。 プーチン政権発足後、わずか3ヶ月で起きた潜水艦事故。 当時の報道で事故は知っていたけど、生存確認があっても助けてもらえないロシアの現状に当時は恐ろしさを強く感じた記憶があります。 ロシアは財政難で所有していた潜水艦は3分の2が錆びて鉄屑になっている。 何とか軍本部と連絡を取りたい生存者たち。 現地で留守を守る乗組員の家族の悲壮感。 しかし軍本部は説明会や記者会見をしても文章を読むだけのおざなりな会見になる。 「この事故のそもそもの原因は他国船との衝突。さらにNATOの強硬姿勢が事態を悪化させた。」と言い放つロシア側。 得意の人のせいにするお国柄はずっとずっと変わっていない。 この事故を心配して救助の支援を持ち掛けたイギリス海軍。 准将ラッセル(コリン・ファース)はロシアの救難艇では不可能だと知っていた。 何とかロシア側を説得したいラッセルだが「どこの国にも支援は受けない。潜水艦乗りは覚悟をしながら任務している。」と言い切るロシア海軍。 あぁ、その間に酸素がなくなり限界に近づくのに…。 総司令官のペトレンコ大将の会見も形式通りで怒りを感じる。 (演じる名優マックス・フォン・シドーの遺作になったのは複雑…。) 機密を守るため、国辱もさらしたくない。 そして潜水艦を失えば他国の責任にするつもりのロシア。 救難艦が何度やっても吸着できず、内部の音も確認できないと知ったロシア軍はここでやっと「連中にやらせろ」とイギリス軍の支援を受け入れる。 このやり取りも腹立たしい。 イギリス海軍の潜水士がクルスクのハッチを開けると、そこには絶命した乗組員たちの姿が…。 人命優先が当たり前だと思っているとロシアの体制主義には言葉を失ってしまう。 乗組員たちは果敢に闘ったと思う。 リーダー役のマティアス・スーナールツに従う陽気な戦友や、まだ未熟な船員達もいたが、最後まで諦めなかったと思いたい。 「海の男に固い絆あり♪」と歌う姿には泣けてくる。 潜水艦内の状況は遺された短い手紙でしかわからなかったけど、想像を絶する恐怖だったと思う。 家族への説明会で幹部に詰め寄るミハイルの妻ターニャ(レア・セドゥ)、他の家族たち。 騒ぐ乗組員の母親に後ろから近づき注射を打つ軍関係者。 実際の映像にも残っているけど、そもそも毒殺や刺客を向けるのを何とも思っていない国。 乗組員の葬儀でペトレンコ大将の握手を毅然と拒んだミハイルの息子ミーシャ。 ヴィンターベア監督らしい子どもの表情の撮り方がすごかった。 映画の中ではプーチンの登場シーンは削除されたらしい。 ソ連時代も、この事故の2000年も、さらにウクライナ侵攻をしている現在もロシアはまったく変わっていない。 整備もまともにされていない潜水艦や救難艇に「覚悟」だけを持って任務につく人々。 そんな人々に対して尊厳さえ認められないこの国は恐ろしさしかない。 間違った愛国心を持つロシア。 一部の権力者、特権階級や財閥が富を成し、実際に動員される兵士の扱いは低い。 とても辛い史実だけど、観て良かった作品でした。