
星ゆたか

ベン・ハー(1959)
平均 3.6
2022.6.20 【座談会レビュー】第七回。 アカデミー賞(11部門)史上最多受賞。いまだにその記録が破られない映画について語り合いたいと思います。 今回も出席は、星ゆたか、光みつる、風かおる、雲かすみ、雨みつをの皆さん。どうぞよろしく。 (星)作品カバーが、ミケランジェロの有名なシスティーナ礼拝堂の天井壁画「アダムの創造」で始まります。“神と人間がお互いの指先を触れ合わせる” あの絵です。 この作品アメリカでは、戦前に二度映画化され、戦後の三度目の作品でしたね。 (光)原作者のルー・ウォーレスは1880年にこの作品を出版していて、始めは舞台で評判をとったらしいですよ。初めての映画化の時(1902年)にはすでに亡くなったていたそう。1925年の二度目の作品にADとして参加していたのが、本作の監督ウイリアム・ワイラー(1902年生まれ)という不思議な繋がりがあるようです。 この作品でワイラーは三度目のアカデミー監督賞。(ノミニー歴十一回) (風)キリストが誕生してしばらくのち、エルサレムのユダヤ人がローマの圧制に苦しめ続けられている頃の物語でした。 少年時代は仲良かったメッサラがローマの指揮官で、ユダヤの豪族のベンハーと対立するのが前半の主な筋書きです。 新総督着任の行進の予期せぬアクシデントで、ベンハーの一家の人達の運命が一変します。母娘は牢獄、ベンハーは奴隷として捕らえられてしまうんです。 (雲)そしてその彼が熱砂の砂漠を奴隷として移動中、渇きの死の苦しみから救いの“水”を与えてくれたのがキリストでした。 最後まで背後から写しキリストを見せない演出です。そしてそしてさらにこの時、ローマ兵がベンハーとは違う、キリストにただならぬ雰囲気を感じ、たじろむ表情がなお効果を上げました。キリストを演じたのはドイツ人のピーターという青年だったとか。 (雨)この後ガレー船の漕ぎての多くの奴隷の中、マケドニア海戦で指揮していた、アリウス提督の命を助けたことで、恩義を感じられました。さらに死んだ息子の代わりと養子に迎えられ、剣闘士の腕で名をはせ、運命が好転することに。 ユダヤ人でありながら、ローマ市民として認められますが、気がかりの母妹娘の行方を探しての旅に出ます。 このなかでベンハーと相思相愛になるエスターを演じたハーヤー・ハーラリートという女優さんは、中々好印象ですが、この作品だけで他の映画には出演してないそうですね。 (光)そこで出会ったアラビアの族長の、見事な白馬四頭の馬車の競争レースは、すでにローマの競技で経験済み。 『外側の馬を足の早い馬にするとカーブの回りが上手くいく』というアドバイスが気に入れられます。 そこで族長がメッサラと大金を賭けるそのレースに出ることに。 この族長を演じたイギリス俳優ヒュー・グリフィスがアカデミー助演男優賞でした。 (雨)ちなみにベンハーを演じたチャールトン・ヘストンは35歳で初のオスカー受賞。完璧主義を目指すワイラー監督に、随分しごかれたと話してました。 あの複数の馬を操る競技のために、撮影前にローマ入りするやいなや、練習に明け暮れたと。 劇中では、もう牢獄に入れられて何年も経つ母娘は、すでに死んでいるだろうと、その“恨みのエネルギー”を勝負の力にしてそのレースに挑みます。 そして映画史上燦然と輝く、あの緊迫のスピード溢れる、一瞬とも目が離せないレース場面でした。四頭並列の馬の馬車を九代表が、競技場を八周回って勝敗を決めます。途中何台も転破壊し、リタイヤしていくんです。 この場面だけで四ヶ月の練習、三ヶ月の撮影が続けられたというすごい話。 (雲)そしてやはり聖書を題材にしているので、ベンハーの心境の変化が感動的ですね。 死の病と言われていたライ病で、洞窟に追いやられていた母娘を、恐れなく抱きしめられるようになるのは、キリストの愛の心・教えでした。『憐れみ深い人は幸いだ 平和を作り出す人だ』 (光)けれど競馬レースで宿敵メッサラが罰を受け死んだとしても、ローマの圧制は“許し難き”現状で、ベンハーは中々素直な気持ちになれない状態でした。 それが《全ての民の罪の身代わり》に生まれてきたとする、キリストに心うたれ、本人の中に許しの心も認められた。 そのお陰で母娘の奇跡の生還、ライ病の完治のラストを迎える訳です。やはり憎しみの心がある内は、病の死の恐怖から抜け出せないとする解釈でしょうか。 (風)既成概念に人間って、縛られているんです。病は恐いって。 キリストの裁決の場所へライ病の母娘を彼が連れていく所。 恵みを求める盲目の老人の皿に、ベンハーが金を与えると、周りの人達がライ病の母娘に気づいて叫び声をあげ逃げ去ってゆく。するとその目の見えない老人は、その恵んでもらった金を捨てるんです。恐い病が移っては困るの反応から。 ですから普通、常識で縛られているうちは、本当の意味の心の自由を得られないんだと思う。 (星)撮影は1958年のローマ・チネッタ撮影所で約一年掛けて行われたそうです。総出演数五万人、戦車競争シーンだけで一万五千人、台詞をしゃべる者が三百六十五名、うち重要な役が四十五名、構想十年、セット三百杯以上、一台十万ドルのカメラ65を延べ六台使用、等々。 当時のアメリカのスペクタル映画の最大級の作品であることに間違いありません。 インターバルの演奏を作品の前と中頃に入れた長編ですが、最後まで飽きずに見られるいかにも映画らしい作品でした。 皆さんは如何でしたでしょうか? それではまたのご来場をお待ちしております。ありがとうございました。