レビュー
Till

Till

4 years ago

4.0


content

サラの鍵

映画 ・ 2010

平均 3.7

ヴェロドローム・ディヴェール大量検挙事件を題材とした同名小説を原作とするドラマ映画。 ホロコーストやT4作戦などのナチス・ドイツの愚行の数々についてはこれまであらゆるメディアで取り上げられてきたし、幾度となく映画化もされてきたので幅広く認知されていると思うが、そこにフランスも加担していたことはあまり知られていないのではないだろうか。このヴェロドローム・ディヴェール大量検挙事件(略称:ヴェル・ディヴ事件)は、第二次世界大戦時にフランスで行われた最大のユダヤ人大量検挙事件(検挙自体は少し前からも行われていた)で、当時のフランスの政権であり、事実上ナチス・ドイツの傀儡政権だったヴィシー政権がフランス警察を動かして作戦を実行した。ヴェロドローム・ディヴェールとはパリ15区にあった冬季自転車競技場ないしスケート競技場のことで、検挙されたユダヤ人の多くは食料や飲料水をほとんど与えられないまま5日間ここに閉じ込められた。その環境の劣悪ぶりは本作でも描かれている。最終的に検挙者数は1万3152人に上り、そのうち4115人は子供。彼らのほとんどはその後、東欧各地の絶滅収容所に送られ、無残にも虐殺されてしまったという。 当時のフランスはナチス・ドイツの支配下にあったため、協力せざるを得ない状況だったのではないかと思われるかもしれないし、実際にそういった側面もあるのかもしれない。しかし、元々ヴィシー政権はナチス・ドイツに協力的だったわけだし、フランスではこの事件の2年前からすでにユダヤ人を差別する法律をナチス・ドイツに強制されることなく“自発的に”採択している。こういった点からもヴィシー政権の罪は重く、この事件もフランス最大の黒歴史と言えるだろう。 世間にはまだまだ認知されていないこの恥ずべき事件をフランス自身が発信するというだけでも大変意義のあることだと思うが、本作は映画としての完成度もかなり高い。ジャーナリストである主人公がこのヴェル・ディヴ事件に巻き込まれたユダヤ人女性サラの壮絶な人生に迫っていく過程を、現代と過去を交差させながら描いていく。サラは一体どういう人生を歩んだのか?今彼女はどうなっているのか?というミステリーで物語を推進しつつ、収容所から脱出を試みるシークエンスのスリル、そしてエモーショナルなドラマも用意されており、エンタメ性も抜群。登場人物の描き方も巧みで、すべての人間にちゃんと魂が宿っている。この洗練された脚本と巧緻を極めた演出には唸らされた。 ナチス・ドイツと当時のフランスを批判する鋭い社会性と映画的な面白さを両立させた秀作。同じくヴェル・ディヴ事件を扱った『パリの灯は遠く』(1976)と『黄色い星の子供たち』(2010)も観てみようと思います。