レビュー
全共闘、学生運動、過激派・・・等々の稚拙な感染症が大蔓延していた「あの時代」を、ようやく俯瞰的に描けるようになったのではないだろうか? この映画の成果は、製作スタッフがいずれも非常に若く、当時を全く経験していないからこそ出来た成果だと思う。 「革命」とか、「闘争」とかという言葉に酔っぱらい、ろくな理論武装も組み立てられずにとりあえず「武装」し、広い見識など持たないものだから、結果「セクト」化し、リンチや殺人に発展する「総括」を行う。もはや、単に「幼い」としか言いようがない。 これは、当時の警察やマスコミも、彼らのことを「思想犯」と持ち上げ、甘やかしたことが主な原因であると思う。 この映画は、その甘やかしをストレートに描いている。そこが良い。 恐らく16ミリで撮られた、ざらついたフィルムの質感が当時を思い起こさせるが、描き方は極めてドライだ。朝霧自衛官殺人事件は、殺人事件であって、それ以外ではない。今考えれば当たり前のことだ。また、マツケンはあくまでペテン師であり、妻夫木はあくまで頭角を焦る幼い若者である。極めて乾いた口調で描かれている。 ラストの妻夫木の「泣きの長回し」は、凄い。このシーンで大方の観客は、彼が「ジャーナリズムでの本物」という幻想のために、そのジャーナリズムから拒絶された自分の稚拙さを悔いている・・と感じると思う。人間が一人死んでいるのだ。悔いでなくて何であろう。 これが監督が団塊の世代であったら、多少なりとも当時を美化し、甘っちょろくノスタルジックに描くところで、ああは泣かせないと思う。例えば、少し涙ぐませて、当時の仲間のフラッシュなど挿入するに違いない。 妻夫木演ずる沢田は、自分が情けなくて、ただ泣くのだ。名演出であり、名演だと思う。
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