レビュー
dreamer

dreamer

4 years ago

4.0


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ナイル殺人事件

映画 ・ 1978

平均 3.2

この映画「ナイル殺人事件」は、アガサ・クリスティー原作の「ナイルに死す」の映画化作品で、クリスティーの原作にほぼ忠実に映画化されていて、ラストでのドンデン返しがお楽しみなのだから、読んだ後では種も仕掛けもわかっている手品を見せられるのと同じことになるので、絶対に読む前に、先に映画を観ることをお勧めしたいと思う。 私は、このクリスティー原作の「ナイルに死す」は、長過ぎる上に矛盾があって、彼女のミステリーの中ではそれほど好きな作品ではありません。 彼女自身も、恐らく出来栄えに多少不満があったらしく、戯曲に書き直しているくらいで、ただメロドラマとしてみた場合は、それなりに面白いと思う。 そして、この映画化作品は、「探偵スルース」の劇作家で、ヒッチコック監督の「フレンジー」の脚色もしているアンソニー・シェーファーが、わかりやすく、ていねいな脚本に仕立てて、出演俳優たちに思う存分にお芝居をさせているので、実に見応えのある作品になっていると思う。 大富豪の相続する権利を持つ娘を、それぞれ違う理由から狙っている人物たちを紹介してから、メインの舞台となるエジプトへ移るサスペンスの醸成がまずうまい。 大富豪の娘ロイス・チャイルズが、友人のミア・ファローの恋人、サイモン・マッコーキンデルを横取りして結婚、エジプト旅行に出かける。 嫌がらせをしに追いかけるミア・ファローを初め、ロイス・チャイルズに恨みや感心がある人物が、アスワンのホテルに集まるまでの導入部は、脚色のお手本とも言えるほどのうまさが光っている。 売り出し当時の役柄に戻って、軽妙にワトスン役を務めるデイヴィッド・ニーヴンが、ぶよぶよに太ったアンジェラ・ランズベリーの官能小説作家に、情熱的なタンゴで悩まされる笑いの場面から、ミア・ファローの登場でみんなが静まりかえるところなど、俳優たちも気持ちよさそうに演技をしているのがわかって、実に面白い。 ピラミッドの上でフラれた元の恋人が出現する場面のショック演出と女性の執念の物語と見せかける展開。 ラストの絵解きはもちろんのこと、途中のエルキュール・ポワロの仮説も画面に出して見せ、わかりやすく興味を盛り上げる手法もシナリオのうまさも手伝って、ジョン・ギラーミン監督の演出もなかなかうまい。 ワジ・ハルファまでナイル川を逆のぼる遊覧船、カルナーク号に一行が乗り込むと、船室でロイス・チャイルズが殺され、更に二つの殺人が起こって、さて犯人は? ということになるのだが、ちょっと理詰めに考えれば、この犯人はすぐにわかる。 だが、それよりも解決に達するまでの芝居に、色々と工夫が施してあって面白い。 宝石に目のない未亡人のベティ・デイヴィスを初め、ミア・ファローまで、かなり演劇的とも言えるオーバーアクトなのだが、それが生きるようなシナリオなのだ。 そして、圧巻はポワロを演じているピーター・ユスティノフで、私は個人的には「オリエント急行殺人事件」でポワロを絶妙に演じた、アルバート・フィニーの方が私が大好きな俳優ということもあり、断然好きなのだけれども、ユスティノフも大柄なポワロということで、原作のイメージとは違うが、それも気にならないくらいに、緩急自在にポワロを演じていて、アスワンの市場で、彼がミア・ファローに意見して「心に邪悪を入れてはいけない。棲みついてしまいますよ」と言うと、「愛が棲めないのなら、邪悪を代わりに棲まわせるわ」とミア・ファロウが答えるあたりのやりとりを見ていると、いよ!千両役者! ----と声を掛けたくなるほどの素晴らしさだ。 とにかくこの映画は、1930年代の風俗とエジプトの風景の魅力。「オリエント急行殺人事件」のような超豪華な有名スターの夢の競演という派手さはないものの、それでもミア・ファロー、デイヴィッド・ニーヴン以下のスターの使い方、その全てが鮮やかで、ミステリーの楽しさを満喫させてくれた作品だと思う。