レビュー
オーソン・ウェルズ監督・製作・脚本・主演によって製作された1941年のアメリカ映画 ・ 新聞王ケーンが、“バラのつぼみ”という謎の言葉を残して死んだ。新聞記者のトンプソンは、その言葉の意味を求めて、生前のケーンを知る人物にあたるが…。 ・ イギリスやアメリカで歴代映画のランキングを発表する時、必ずと言っていいほど1位に選ばれるのが、この「市民ケーン」だ。当時24歳だったオーソン・ウェルズが、映画製作の全権を任されたデビュー作と言うんだから信じられない。30代半ばまではまともに映画も撮らせてもらえない時代に、この待遇は破格だ。ラジオや舞台で活躍していたウェルズが、いかに突出した存在だったかが伺えるエピソードだ。 ・ この映画は、撮影技術、プロット、音響効果などすべてがそれまでにない革新的なものだった。スタンリー・キューブリックや小津安二郎を含め、後人の映画人に多大な影響を与えたのは言うまでもない。ケーンの生涯を振り返るニュース映画で始まり、ケーンを知る人たちへのインタビューによって、ケーンという人物を浮き彫りにしていく。この時系列を無視した構成が、複雑なのにまとまりがあるからすごい。 ・ このまとまりを生み出しているのが、ケーンが死の間際に言った“バラのつぼみ”という言葉だ。新聞記者がこの言葉の謎を追うという構成により、最後まで物語への緊張感や好奇心を保たせている。そして、最後に明らかになる言葉の真相。これにより、それまでのケーンの印象と違ったケーンの内面性を知ることになる。これにより物語に一層深みが増すのだ。 ・ 撮影技術もあらゆるシーンで高度な技術が使われている。カメラの動くスピードなどにも意味があり、照明の明るさも、年をとると暗くなっていくなどの工夫がされている。影になる部分にも意味があり、人物の立ち位置まで計算されている。音響効果も計算されていて、場面に合った音量など、細かい技が駆使されている。 ・ さらに、映画音楽を、ヒッチコック作品などでも知られるバーナード・ハーマンが担当している。この人が音楽を担当していれば間違いない。とどめにオーソン・ウェルズの演技がある。現代のシェイクスピアとまで言われた彼は、演出だけでなく、演技の才能までずば抜けていた。青年期、中年期、壮年期のケーンを巧みに演じ分けている。他の俳優もほとんど映画初出演なのだが、ウェルズの劇団の俳優だっただけに、みんな演技がうまい。 ・ これだけすべてにおいて革新的な作品なだけに、アカデミー賞で9部門ノミネートされた。しかし、受賞したのは脚本賞だけ。この作品は、実在の新聞王ウィリアム・ランドルフ・ハーストの生涯を描いた作品でもあり、それによってハーストの新聞社からの妨害や、ハリウッドの大物を敵にまわしてしまったのだ。このような圧力がアカデミー賞にも影響し、作品も興行的には失敗に終わった。 ・ この映画を観れば解るように、オーソン・ウェルズという人物は、紛れもない天才だった。しかし、皮肉にも、この映画で映画史に名を残すと同時に、この映画でハリウッドでの地位を失ってしまったのだ。この後もウェルズが自由に映画を撮れていたら、多くの傑作を残していたに違いない。とにかく、映画好きなら観ておくべき作品のひとつだろう。
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