
てっぺい

怪物
平均 3.9
2023年06月03日に見ました。
【怪物級の映画】 章立てで、目線によって“怪物”の見方が全く変わる。内包する骨太社会問題がその伏線回収の肝となる、怪物級に秀逸な脚本。エンドロールでは、坂本龍一の遺作に聞き入る。 ◆トリビア ○本作は第76回カンヌ国際映画祭に正式出品。コンペティション部門で脚本賞のほか、クィアパルム賞(LGBTQをテーマにした作品への賞)も受賞した。(https://amp.natalie.mu/eiga/news/526312) クィア部門審査員長のジョン・キャメロン・ミッチェル(『ヘドウィグ・アンド・アングリー・インチ』の監督)は10日間で12本の映画を鑑賞し、本作が満場一致で選ばれたと語る。(https://www.oricon.co.jp/news/2280624/full/) ○音楽を担当した坂本龍一は2023年3月に他界、本作が映画劇伴としての遺作となった。是枝監督はオファーした際、「全部を引き受ける体力はないが、音楽のイメージが浮かんだので、形にしてみます」という手紙をもらったという。(https://www.oricon.co.jp/news/2277743/full/) 〇湊と依里を演じた黒川想矢と柊木陽太は、オーディションで選出された新星。是枝監督は「黒川くんは非常に繊細で、役柄への感情的なアプローチから入るタイプ。一方の柊木くんは、頭の中で写真を撮るようにして台詞を覚えるらしく、状況が変わっても同じようにお芝居ができる。全然違うタイプのふたりでしたが、うまい組み合わせになった」と語る。(https://www.cinematoday.jp/news/N0137052) ○是枝監督は過去作で、子供の自然な演技を引き出すためにあえて台本を見せず、口頭でセリフを伝える手法を取っていたが、本作では主人公2人の希望で台本を渡した。ただし、何かを食べながらなど、アクションの中でセリフを言う練習をさせ、芝居に馴染むよう演出した。(https://m.crank-in.net/interview/128003/1) 〇湊と依里の秘密基地、電車の内装は、2人が撮影外で遊んでいたものを監督がアドリブでシーンに取り入れた。(https://moviewalker.jp/news/article/1139694/p2) ○ 病院の前で湊が早織の手を振り払って走り出す長い1カットが、是枝監督が何度も泣いてしまうお気に入りのシーン。子ども、特に息子が違う生き物になり、手元から離れていく瞬間、“何が起こっているか分からない”“追いかけるけど届かない”という母親の焦燥を安藤サクラが見事に演じてくれたと語る。(https://www.asahi.com/and/article/20230531/423798188/) 〇永山瑛太が演じた保利先生は、脚本の坂元裕二による彼の当て書き(その役を演じる俳優をあらかじめ決めておいてから脚本を書くこと)。(https://www.elle.com/jp/culture/movie-tv/a43911283/hirokazu-koreeda-interview-2305/) 永山は、保利が「自分は一般的な感覚で、一般常識のある人間である」と思いながら教師をしているのに、窮地に追いやられていく、生きづらさを抱える役と解釈して演じた。(https://thetv.jp/news/detail/1138793/) 永山はカンヌのレッドカーペットで「コレエダ!」と呼びかける声が「コレエイタ!」に聞こえ振り向いたが、誰も見ていないという恥ずかしい体験をした笑。(https://mdpr.jp/cinema/detail/3779354) 〇校長先生を演じた田中裕子は、ホルンを自身で吹きたいと伝え、コーチをつけて撮影の1年前から練習した。(https://www.elle.com/jp/culture/movie-tv/a43911283/hirokazu-koreeda-interview-2305/) 〇撮影が行われたのは長野県諏訪市。3か月間で諏訪市の児童や保護者などのべ700人ほどがエキストラ出演した。舞台の小学校は、2021年に廃校となった旧城北小学校。(https://www3.nhk.or.jp/lnews/nagano/20230426/1010026357.html) ◆概要 【脚本】 「花束みたいな恋をした」坂元裕二(幼少期の実体験を元にしたオリジナル脚本) 【監督】 「万引き家族」是枝裕和 【音楽】 「ラストエンペラー」坂本龍一 【出演】 黒川想矢、柊木陽太、安藤サクラ、永山瑛太、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子 【公開】2023年6月2日 【上映時間】125分 ◆ストーリー 大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子どもたちが平穏な日常を送っている。そんなある日、学校でケンカが起きる。それはよくある子ども同士のケンカのように見えたが、当人たちの主張は食い違い、それが次第に社会やメディアをも巻き込んだ大事へと発展していく。そしてある嵐の朝、子どもたちがこつ然と姿を消してしまう。 ◆ ◆以下ネタバレ ◆ ◆脚本 “第3章”の伏線回収で、各章で描かれた“怪物”がまるでオセロのように印象がひっくり返っていく脚本が見事。話は、逆から考えていくと分かりやすい。校長は、湊が抱える苦悩を楽器に乗せることで、そこから解放されるよう導く。各章で諸悪の根源に見えた彼女は、守りたいものは一貫して学校であり、その子供達。追い詰められていた湊にはきっと彼女が良心の塊に見えたはず。そんな2人の音色に気づき校長の真の姿を見た保利が、自殺をとどめ、真実に気づき始める。思えば保利も、棒読み謝罪のあめ玉舐めと、狂気にも見えたあの姿は、自分を陥れようとする学校側への抗いか。“豚の脳”発言が記事にまでなったがそもそもあの言葉は依里の父のもので、保利は劇中では発していない。湊をただ守りたかった早織は逆に、“普通に結婚”という言葉で湊を車から飛び降りるほど追い詰める。序盤の“豚の脳になった人間は人間なの?”の湊の問いにも、無意識に不正解を出していた。目線によって誰でも“怪物”たりえる、振り返れば本作のそんなメッセージがしっかり輪郭化されていた。 ◆演技力 “第1章”で、学校側と対峙する早織。“鼻と手が接触”する事を校長に身をもってすごむ安藤サクラの鬼気迫る演技の迫力。是枝監督が何度も泣いたという、病院で早織を振り払って走る湊を、“息子に何かが起こっているけどそれが分からない”悲痛の表情で止める彼女の姿も素晴らしかった。永山瑛太の当て書きという保利の姿もドンピシャ。あの棒読み謝罪にあめ玉舐め然り、金魚の転覆病に例えたどこか少し変わり者感のある役がとても活きていた。ただ湊を守りたい一心の早織も学校側には“怪物”であり、湊をも逆に追い詰めていく。保利も早織にとっては怪物以外の何者でもなく、いじめに見える問題の真実も分からない。本作でその根源となった性のマイノリティの問題は、まだまだやはり気づきにくい事であって、見ている側にとって2人の誤解は不可避な事にすら思える。2人の演技力は、その真実味もぐっと底上げする素晴らしいものだった。 ◆ラスト 水路から脱出し、瑞々しく声をあげながら走る2人の先に線路が続いていたラスト。それはまるで困難を乗り越えた2人に“誰でも掴める幸せ”が訪れた前向きなものにも見える。ただ、“出発の音”に聞こえた山崩れは、早織と保利が天窓(あの電車には天窓がなかったので電車は横転している)を開けて見た車内は荒れており、湊と依里に会えた描写もない。2人が草むらを駆ける際に入った白パカは非現実を演出しているよう。ラストの線路は劇中で一度、通行止めの状態で登場しており、つまり2人は亡くなっていて、あれは2人の希望の世界とも解釈できる。いずれにしても、解釈を如何様にもできてしまうこれぞ監督の手腕なわけで、見た後でも余韻が残り続ける本作の重みがすごい。坂本龍一追悼のクレジットに製作陣の想いを感じつつ聞き入るエンドロールも、本当に素晴らしかった。 ◆関連作品 ○「万引き家族」('18) 第71回カンヌ国際映画祭でパルム・ドール賞を受賞し、是枝監督の代表作に。安藤サクラの泣きの演技が印象的。プライムビデオ配信中。 ○「誰も知らない」('04) 第57回カンヌ国際映画祭で柳楽優弥が主演男優賞を受賞。育児放棄の実話を元にした内容で、子役達の自然な演技に是枝監督の演出手腕が光る。プライムビデオレンタル可。 ◆評価(2023年6月2日時点) Filmarks:★×4.2 Yahoo!映画:★×3.3 映画.com:★×4.4 引用元 https://eiga.com/movie/98367/ https://ja.m.wikipedia.org/wiki/怪物_(2023年の映画)