レビュー
世界をより良い場所にしたい! リベラルエリートが労働者階級の保守層を集めて人間狩りを楽しむブラムハウス産サバイバルホラー。アメリカで銃乱射事件と重なったために公開延期→やっと公開できたと思ったらコロナで上映中止&再び延期となった問題作。 リベラルエリートが娯楽のために人殺し(保守層)をするってだけで相当攻めた内容なわけだけど、事前に某大統領がTwitterで本作を批判する内容を投稿したらしく、上映前に物議を醸しまくってたらしい。どれほど政治的主張にまみれた尖った作品なのかと思っていたら、ブラックなユーモアがふんだんに散りばめられたコメディホラーだった。 例えば追手から逃げるために貨物列車に乗り込むとこで、保守サイドが「列車にこんな都合よく不法移民の家族が乗ってるわけがない!全員役者だ!」と言ったり、リベラルエリートがターゲットを選定する時に「有色人種も入れておかないと問題がある!」と発言したりと、両サイドの極端さを滑稽なものとして茶化しまくった笑える風刺になっていたからずっと楽しく見られた。 目が覚めたら見知らぬ森の中。口には猿轡。周囲には同じような人が大量にいて、開けた原っぱに用意された武器を訳もわからず手にした途端に何者かに銃撃を浴びせられサバイバルゲームがスタートする…というデスゲームあるあるな出だしながらも、「この人が主人公だな」と観客の視点が特定キャラに同調し始めた途端に退場し、主人公が判然としないまま目まぐるしく視点を入れ変えていく。いったい誰が主人公なのか…と観客の思考を強引に振り回し撹乱し続ける冒頭で引きこまれた。 ヒールをぶっ刺して視神経ごと目ん玉を引きずり出すインパクトは強烈だし、頭を吹っ飛ばしたり、車で頭部をひき潰したりとグロ描写も気合が入ってる。手榴弾が不発で安心…と思ってたらもう一個追加で転がってくるという笑いのセンスも好き。ずっとテンション高めに振り回してくれるから最後まで楽しかった。 政治的主張盛り盛りな作品が大衆に受け入れられてる一方で、本作の「茶化し」という作風が受け入れられないのは少し疑問に思った。監督が語っている通り、本作がリベラル側をからかってるのは間違いないのだけど、思想というよりも両サイドともに極端すぎる言動そのものを批判するバランス感覚の良い作品ではないかと感じた。監督自身も両サイドの対立や混沌を煽る意図はないと答えているように、最後まで見れば煽る意図ではないということがわかるように思う。 物語の流れ的には、2016年のピザゲート事件から着想を得てそうに思うけれど、どちらにしても一部の人々が持つ極端すぎる考えがフェイクニュースや陰謀論によって利用され、踊らされ、惨劇へと発展する、その構造に対してシニカルに批評したのが本作だと思う。SNSで煽っちゃう人も含めて、一人一人の自制・自戒を強く訴えかけているように感じた。 クレイグ・ゾベル監督はどちらかというと職業監督なのかな…とも思うけれど、『コンプライアンス』『死の谷間』ともに、異常状態に置かれた人間の心理が囚われていく過程を描いた作品だったことを考えると、それは本作とも共通しているのがわかる。そして、過去作で描かれた「異常状態」は、ありのままの現実そのものなのだと指摘する意図も明確に浮かび上がるし、その「異常状態」に心が囚われ変容していくことは現実にも事件として起こっているのだという大義名分を獲得してしまっているわけだから、逃げ場がない。面白い作品だと思う。
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