レビュー
しじらみ

しじらみ

11 months ago

4.5


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ANORA アノーラ

映画 ・ 2024

平均 3.6

映画観るの久々すぎて緊張したけど、あまりの傑作に途方に暮れた。 とにかく軽薄で下世話。ショーン・ベイカーのフィルモグラフィーでもダントツの軽薄さではないか。だって「大富豪のバカ息子が勢いで娼婦と結婚しちゃったのが親にバレててんやわんや」って完全にワイドショーの下品なゴシップじゃないか。 出張はあるの?→帰宅するアノーラ→出張という繋ぎが非常に心地よい。こういった小気味よいカットの繋ぎがポップにコメディを演出しているのだが、飛行機の搭乗口で繰り広げられるアノーラvsイヴァン母の弁護士呼ぶぜ対決の結末を提示するそれは、どうしようもない非力さを増幅させてやるせない。 ドライブスルーウェディングでの挙式は、ちょっと『夜の人々』を思い出したり。しかし、ボウイとキーチのような気高さのようなものは一切獲得できないのが切ない。いや、切なくもならないのが本作の軽さであり、良さなのだ。 本作の白眉はなんといっても中盤の異様に長いドタバタ劇。スマフォの使い方が神。ガルニクが机に置くとこね。 アノーラの絶叫に、身体を拘束されても頭部と声帯だけで身体をここまで躍動させられるのかと感動した。 イチャイチャしてる最中にインターフォンが鳴って玄関に歩いていくイヴァンがめちゃめちゃ勃起してて爆笑。カットが変わるごとにテントが小さくなっていって更にニコニコ。 さっきまでスラップスティックに大喧嘩してたオッサンたちを後ろにつけて友人が勤めるお菓子屋では威勢良くなってるアノーラが素敵。イゴールのスッとバットを奪って店のショーケースを破壊しまくるアクションも、彼という人間が正確に且つ即物的に描かれていて素晴らしい。帰り道で一人バット遊びしてぶん投げるのも素晴らしい(欲を言えばバットが地面に落ちてコロンと音が鳴るまで映して欲しかったが)。この件があることにより、ハンバーガー屋でのアノーラの罵倒に対する「なんで男色野郎なんだ?」というに反応にちょっとした緊張感が走るのだが、後々のやり取りでおそらく傷ついていただけだったということが分かる。いや、ムカつき成分も入っていたのかもしれないが、何れにせよその瞬間はあくまで即物的な人間のアクション/リアクションが映し出され、感情は後から推測されるという徹底した現在性が本当に素晴らしい イヴァン捜索のため入った店の厨房の入口で見張り役として立ってたガルニクが「大丈夫だから」的な会話から女の子をナンパするんだけど、おそらくHQでも同じようにナンパしてたのが面白かった。 アノーラがイゴールから最初は断ったストールを貰って歩くシーン、少しカット尻を長くすることに、よって感じられる少しばかり倒錯した余韻が良いなあと思いきや前方でトロスが駐禁切られて暴れてるのも最高。その他フィックスで撮られる4人の移動も、ハンバーガー屋でのまったりも、当然絆とは違う、しかし彼らの中にしかない同期が感じられてとても嬉しくなる。彼らと過ごした一夜は決して忘れられないだろう。 アノーラが初めてイヴァンの家に行ったとき、アノーラは水を持って階段を上がっていく。カメラは少し引いた位置からそれをじっくり撮る。なるほど、この駆け上がった階段を転げ落ちていく映画なのね、と思いきや、最後にアノーラは水を持ってその階段を上っていく。反復と差異! ラストカットも、愛情も感謝も結局性的な奉仕でしか伝えられないアノーラの哀しさと、その中でもほんの僅かに見える人間的な成長に感動する…とか読み解けるけど、単に疲れてヒステリー起こしてるだけで明日にはケロッとストリップしてそうにも感じられて良い。 数少ない不満点としては表情で演技させすぎな点と、下品極まりない超クローズアップがあったとこかな。でもそんなことどうでもいいくらいの傑作だった。映画観るの久々すぎて過剰に刺激を感じすぎただけかもしれないけど。