レビュー
【重量メガトン級の決断と葛藤】 国家の最高機密文書に辿り着くまで、そしてそれを出版する事の影響のとてつもない大きさ。それらの描写全てが、葛藤とその決断の重みに繋がる、映画の山の作り方がスゴい。 ◆ スティーブン・スピルバーグ監督のもとの、メリル・ストリープとトム・ハンクス初共演。第90回アカデミー賞作品賞・主演女優賞ノミネート作品。 ◆ 71年、ベトナム戦争を分析・記録した国防省の最高機密文書=通称「ペンタゴン・ペーパーズ」の存在を、ニューヨーク・タイムズがスクープする。ライバル紙でもあるワシントン・ポスト紙の発行人キャサリン・グラハム(メリル・ストリープ)は、部下で編集主幹のベン・ブラッドリー(トム・ハンクス)らとともに、報道の自由を統制し、記事を差し止めようとする政府と戦うため、ニューヨーク・タイムズと時に争いながら連携し真実を世に出すため奮闘する。 ◆ 1つの文書を巡って、新聞社のオーナーと編集長だけの人生だけではもちろんなく、新聞社に働く人々、新聞業界、そして国家、ひいては国民全体と、影響範囲が雪崩のように広がっていく様子が独特の緊張感を生んでいると思う。罪に問われ、会社を潰すことすら目に見えている状況で、決断を下すのか?ケイが迎える“報道の正義”と“経営責任”の狭間での大詰めのシーンは圧倒的な緊張感。国家の最高機密文書に辿り着くまでの前半と、その出版の決断に迷う後半、決断シーンを山の頂上として、全てのシーンがその頂に登るための序章である事が分かる。映画の山の作り方がとにかくピカイチ。 興味を持ったのは、この映画の視点と言うか、事実の切り取り方。国家機密文書の暴露という意味では、最初に出版したタイムズ紙に焦点を当てていてもおかしくないわけで、いわば二番手のワシントンポスト社がなぜ主体の映画なのか。ただ、それはこの映画が描く、国家の圧力と戦った報道の自由、そこから広がった民主主義の原則ひいては戦争の終結への後押し、その図式に意味がある。見終わってそんな感想を持ちました。 同じメディアに携わる者として感じたのは、映画に何度も出てきた“報道の自由を守るのは報道のみ”の重み。この映画のレベルまで行くことはないにしても、自分が何かを発信するとき、何かそれを阻害するものがあっても、揺るぎない信念があればそれを貫く事。そんな事を感じた映画でもありました。 一点、どうしても描き足りてないと感じたのが、ケイが出版の決断に至るまでの信念。新聞社のオーナーは自らの情熱で得たポジションではない訳で、映画前半はむしろ判断力のない描写すらあった中、報道の自由を貫く決断に至るまでの信念は十分ではなかったと思う。少し流れで決断してしまい、引くに引けない状況に追い込まれた社主、みたいな見え方になってしまっていたと思う。この映画の決定的な山のシーンなだけに、とてももったいないと感じた。
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