レビュー
津村記久子さん(1978年大阪市出身)の2005年太宰治賞原作の映画化作品。 監督は吉野竜平さん(1982年神奈川県出身) 出演俳優の佐久間由衣さん、奈緒さん、小日向星一さん、葵陽さんの四人が1995年生まれ。自殺してしまう役の笠松将さん(綾野剛さん似の)は1992年生まれと若い同世代が大学生の役で出演しています。 私にとっては皆、あまり顔馴染みでない役者さんなので。 今日の大学生の日常の様子はこんな感じなのかぁ、なんての思いで見ました。 大学四年生の主人公、ホリガイは早々と地元の児童福祉科の就職が内定し、あとは卒業論文を提出するだけの、その服装・たたずまい・言動などが〈男まえの〉どちらかというと《男ぶり》の女性。 ゼミのメンバーの一人に居酒屋の親睦会で、『お前は、いつも本質的な所を笑いでごまかしている。』と言われ。 続いて『他人の人生に介入する、人様の人生に対してあまりにも無知で、それで福祉の仕事?』とも釘を刺され、悔しいけどそれは自分でも認めている。 そんななか友人のヨシザキに連れられて居酒屋にやってきた、ホミネなる人物に興味を抱く。彼はアパートの階下に住む少年が、ネグレクト(育児放棄)され、このままでは餓死してしまうからと、自分の部屋に連れて何日か面倒みていたら、母親がやっと帰って来て、誘拐だと騒いだので警察に補導されたというではないか。 何故彼に興味を持ったかというと。 ホリガイがそもそも児童福祉の仕事に就きたいと考えたきっかけは。 高二のある日テレビで報道された、四歳の少年の何年も前の失踪事件に、何故か普通の生活の歩みを静止させられるほどのショックを受けたからで。 その事に対しては、あまりに動機としても突拍子なので、これまで誰にも話したことがなかったが、このホミネ君なら分かってもらえそうだと感じたからだ。 ただこの時は知り合って間もなくだったし、詳しくはまたこの次の機会にと別れた。冗談でホミネくん『ホリガイさんのような面白い人と結婚したら、いいだろうね。公務員で生活も安定してるだろうし。』の言葉を残し‥。 物語はこのネグレクトの問題と、もう1つ過去の暴力の体験の痛みや哀しみを抱えた、イノギという一年学年下の女性と親しくなる話からなる。 自身の卒業論文資料のためのアンケートを巡って、一緒に食事(大量の生ガキをそのまま、さらに鍋で食べる至福感は思わず、こちらもヨダレもの)をしたりして、互いの昔の体験話で、グット親しくなる。ニット帽子と長い髪で隠していたイノギの耳の生々しい傷あと。 中2の学校の下校中に突然襲われた暴力的強姦事件。その事で両親は離婚。自分は岡山から引っ越し香川の小豆島の祖母に育てられたのだという。 何事にも軽い笑いのノリで受け答えしていたホリガイであったが。 皆それぞれ表面的には何事もなく、うまく毎日をそつなく送っているようで。 実はやはり悩みも苦しみもあるという現状を実感して。 ホリガイは『私は処女ということが恥ずかしいというより。お前は誰も手を出さない欠陥品だと言われているようで苦しい。そんな人間が人の人生に介入する資格なんてないんじゃって気がする』とイノギにこぼす。いきなり処女という言葉が日常会話に?だが。 この前にホリガイのバイト先の後輩の青年に、自分は男性自身が大き過ぎてセックスが出来ない童貞だと、酒に酔って打ち明けられその青年を介抱する“男まえ”の描写があった上でのこと。 そしてイノギとの本音の会話となり、そのまま彼女らはお互いを大切にしたい思いがつのり。 キスをして抱きしめあい、慰め合う。女性同士の行為はその一回のことだが、心身共に1つになったということで大切な一夜であった。 このあと友人のヨシザキから、ホミネがバイク事故で死んだと話され。彼はその葬儀に、彼の実家の島根に行って来るという。 亡くなる前の晩まで愉快に酒を彼のアパートで飲んでたのにとショックを隠せない。しかし彼の実家の弟さんの話では、実は事故でなく首をくくっての自殺だったのだという。『何かいつもと違った所はなかったですか?』と聞かれても、いつもどうり下らない話しかしなかったと省み、しばらくシヨック状態で大学も休む。 そんなわずかな異変にも、少しも気づけなかった自分とは?とヨシザキの嘆きも大きい。 しかし彼のアパートの後始末もその後手がけた。形見分けの品をと彼女を呼び出した。 ここでのホリガイの“男まえ”がまたスゴイ! ホミネくんの遺書のような後書きに『下の少年をよろしく』の言葉があったこともあり‥。 なんと階下の“ゴミ部屋”に押し込めれていた少年をベランダから伝わり降り、強行突破救いだし、その後児童養護施設に入れてもらう段取りまで取り付けてしまう。行動は〈男気の現れ〉だが発端はどんなことからも“子供を守りぬく”《母性》から昇華された《人間愛》とでも言うべきか。 この積極的な他者への行動は、ホリガイのイノギへの思いでも同じで、これからもずっとずっと、イノギのことを気にかけて生きていきたいと電話で伝え、大学を中退し小豆島に帰省している彼女を訪ねる旅につながった。 私達は何気ない普段の会話の中で、ふと相手の真意に触れ、信頼や尊敬や友情の思いを深めることがある。 だから人と深い会話にするためにも、分かり合えそうな人とのひと時を大切に、あくせくしないで、ゆったりと共に時と空間を楽しみたいと、これは思わせてくれた映画だ。 時が過ぎ手遅れにならないために。 題名は、『君を侵害する連中は年を取って弱っていくが、君は永遠にそいつらより若い』の意味。 児童誘拐・児童虐待・児童放棄などへの思いが込めらた。
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