レビュー
17世紀初めにイタリアで執筆された世界最初のおとぎ話『ペンタメローネ』を原作とするファンタジー映画。 前々から気になっていた作品ではあったのだが、同じくマッテオ・ガローネが監督を務めた『ほんとうのピノッキオ』が現在公開中ということで、その予習も兼ねての鑑賞。結果から言うとかなり好みの映画だった。 まず、映像美が素晴らしい。中世ヨーロッパの華やかな衣装・建築物や雄大な自然の光景など全編を通して何処を切り取っても絵になる美しさ。そこに「巨大ウーパールーパー(みたいなやつ)」や「巨大ノミ」などギレルモ・デル・トロを彷彿とさせるグロテスクなクリーチャーも登場させることでファンタジックな世界観を見事に作り上げている。決してテンポがいいわけではないのだが(むしろスローテンポ)、この「世界観の緻密さ」のおかげで不思議と惹きつけられ、133分という長尺を全く気にすることなく没入できる。 ストーリーはいかにも寓話的で抽象的。「3つの王国と3人の女」という副題の通り、ロングトレリスの女王、ストロングクリフの老婆、ハイヒルズの王女の話が順繰りに展開される。それぞれの話はあくまでも独立した物語であるため、やがて1つに収束していく『パルプ・フィクション』的なカタルシスはないが、この3つの物語は「女としての性(サガ)に翻弄される恐ろしさ」みたいなテーマで共通していると思う。女王は「子を育てたい」、老婆は「若くなりたい(美しくなりたい)」、王女は「結婚したい」という女性なら誰もが一度は抱いたことのあるような純粋な願望をもっている。しかし、それを叶えるために彼女たちはときに多大な代償を払い、ときに常軌を逸した行動をとってしまう。欲望に飢えた愚かな姿はまさに「悲劇的」であり「狂気的」でもあるのだが、それが一周回って「喜劇的」にも見えてしまうのが不思議。「ホラー」を通り越した「コメディ」、または「コメディ」を通り越した「ホラー」といった相反するジャンルが共存する実に摩訶不思議な物語だった。 ただ、間違いなく好き嫌いは分かれると思うし、決して万人にオススメできるタイプの作品ではないが、作り手の拘りが随所に見られる良質なダーク・ファンタジーでした。
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