レビュー
 TVシリーズ50話を、3本の劇場版にまとめ、新規カットを加えて再編集した。本作はその最終作だ。  人を絶対服従させる力「ギアス」を得た青年、ルルーシュが、世界最大の帝国を相手に戦争をしかける。正体不明の「ゼロ」を名乗る彼の「反逆」が、反乱因子や家族、旧友、学友を巻き込み、やがて世界を作り変える壮大な争いに発展する。ルルーシュは争いの中で、大切な人を失い、人々の思いを踏みにじりながら、孤独に苦悶する。最後には、世界中の憎しみを一身に背負って命を断ち、「やさしい世界」を実現させる。  物語は、家族や友情、国家、政治、戦争、帝国主義と民主主義、生と死、科学技術など、多様なテーマを扱い、複雑だ。その中からひとつ、「約束」という小さなテーマを取り出して考える。  劇場版第1作の序盤で、ルルーシュは最愛の妹、ナナリーと「ゆびきり」をする。いつまでもナナリーのそばにいること。「やさしい世界」であること。それを約束する。もしも「嘘ついた」ら、「針千本」を飲ます。だから、嘘をついてはいけない。小さなおまじないだが、この約束は物語を貫く。  ルルーシュの反逆の目的は、ナナリーが願う「やさしい世界」の実現である。彼は、その目的のために何度も「嘘をつく」。彼はゼロがルルーシュであることを隠し、ギアスを持っていることを明かさない。多くの命を奪う。そして反逆の先に、自分がナナリーと一緒にいられないことを覚悟している。彼は、ナナリーのために、ナナリーと結んだ約束を破ってしまう。  物語終盤で、ルルーシュとナナリーは敵対し、決裂する。ナナリーはゼロの正体を知る。彼の反逆とテロリズムを、平和を願うナナリーは許さない。ルルーシュは、学友や旧友、さらには行動をともにする反乱因子にさえも嘘をつき、周りの人間を失っていく。彼はそれでも、「やさしい世界」のために嘘をつき続けて、死を迎える。人を裏切り、人を失い、孤独を味わう苦しみと、世界中に憎まれる最期を、彼は味わう。それは、「やさしい世界」を実現しても、ナナリーとの約束を守れなかった彼が飲まなくてはならない「千本の針」だったのではないだろうか。  『コードギアス』は壮大で複雑な物語だが、そのなかに、兄弟が結んだ小さなおまじないと願いが貫かれている。400分にわたる物語を紡ぐ1本の糸ではないだろうか。
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