
しじらみ

夜明けのすべて
平均 3.7
今年ベスト。残り11ヶ月どんなに面白い映画が公開されたとしても、本作を越えることはない。というか、20年代ベストでは?三宅唱監督作では、我が愛しのオールタイムベスト1位『きみの鳥はうたえる』の次に好きかも。 冒頭、警察に上白石萌音を引き取りにきた母親が署名する際にペンを落としてしまって「えへへ」と警察官と笑い合うところからもう好きすぎる。 放送部が撮影をしているにも関わらず、ドサドサと部屋に入ってきてバタンと冷蔵庫から炭酸水を開ける松村北斗。周囲はその違和感をスルーするが、上白石萌音はPMSの上白石萌音は見逃さない。ペットボトルをプシュッと開ける音を引き金にブチ切れる(発作を起こす)。このスルスルと淀みなく物語を紡いでいく中に確かに仕込まれる着火点。巧すぎる。 松村北斗が初めて発作を起こした日の帰り、松村北斗宅の玄関先で上白石萌音が「お互い頑張ろう」と言うとパニック障害と生理では辛さも代償も違いすぎるのでは?と言ってしまう松村北斗。しかし、この気まずい緊張感が漂う瞬間、ふたりは初めて向かい合っていた。という素直さ。 白眉はやっぱり髪を切るシーンでしょう。もう全てが愛おしいんだけど、上白石萌音が松村北斗を追って謝りながら立ち上ろうとする瞬間に自分が持ってる今切ったばかりの髪にびっくりしちゃうのね。あれ、もしかして素でびっくりしたのかな?どちらにせよ映画の奇跡が起きていると思う。そして、パッとカットが切り替わると、サッパリした髪型の松村北斗がメンタルクリニックの椅子に座っている。この切れ味よ。そんで、栗田科学の年末大掃除のシーンになるんだけど、みんなで準備体操あとそれぞれの持ち場に捌けていく中で松村北斗が同僚に「サッパリしていいね」と言われるのだが、画面に映っているのは上白石萌音の後ろ姿というのが可笑しくて良い。一方で、その背中が発作の予感でもあるのが巧すぎる。で、ほの発作を察知した松村北斗が微妙にキモい方法でPMSをお勉強した成果を発揮してふたりの距離が縮まって……って言ってくときりがないですな。人間の動き、イベントの数珠繫ぎでグイグイ物語を紡いでいくから仕方がない。本当に凄い。 そして三宅唱といえばやっぱり帽子。『Wild Tour』では伊藤穂乃花さんに髪型を変えてまで色々な被り方をさせ、『ケイコ 目を澄ませて』では岸井ゆきのに前にしたり後ろにしたりして被せていた。そして本作では上白石萌音…ではなくて、なんと光石研が松村北斗のヘルメットを「かっこいいねぇ」などと言いながら前後逆にして被り、松村北斗に笑いながら反対であることを指摘されて正しく被り直す。ここで確信した。三宅唱は絶対に帽子フェチだ。(今度"三宅唱と帽子"で文章書こうかな。)そんで、光石研はヘルメットを被ったまま弟に手を合わせることで、画面が湿っぽくなりすぎないようにしている。品が良いね! あと上白石萌音が外を歩きながらみかんを食べるのが可愛すぎる。『Wild Tour』の伊藤穂乃花さんも恐らく彼女の最高到達点を叩き出していたし、『きみの鳥はうたえる』の石橋静河もめちゃめちゃエロかったし、多分私は三宅唱と女性のタイプが似ているんだと思う。 その他、好きだったところは、 初めて上白石萌音が松村北斗にブチ切れたあとの帰り道、上白石萌音が路上で靴紐を結んでいると後ろから松村北斗が「お疲れ様でした」と言って去って行くカット、上白石萌音がすっくと立ち上がってちょっと佇むところまで収めてるのが大好き。 半身不随(?)になった母親の退院(?)に上白石萌音が付き添うシーン、乗っていた車の前で玄関の階段を上る母親を見ていると、上白石萌音の後ろを子供が「こんにちは!」と走り抜ける。上白石萌音が「こんにちは」返して後ろを向くと、車のドアが開いているのを見つけて閉める。こういうディテールも大好き。 「今の会社に残ろうと思う」「プラネタリウムほんと凄いんですよ」と嬉しそうに話す松村北斗を見て渋川清彦が涙を流すとその涙のワケを言わせる間もなく店員さんがやってきてウェットになりすぎる手前で話を止める。言わなくてもわかるでしょう?と。品が良いね! 上白石萌音が最初の会社でそんな指示じゃコピーができないとヒステリーを起こして問題となっていたが、最後には松村北斗が印刷していたコピー機を松村北斗が呼ばれたから代わりに見てあげるのも、緩やかに成長を描いていて泣けてくる。 そういう反復的なことで言うと、架道橋の描き方。パニック障害を起こした帰り道、上白石萌音は松村北斗を送っていくのだが、松村北斗は「ここからは大丈夫です」と言って一人で架道橋を歩いていく。じゃあ最後は架道橋をふたりで渡るのかというと、そこにはちゃんと物語に則った大人な導線が敷かれている。品が良いね! 男女のメールのやり取りは『きみの鳥はうたえる』でもやっていたけど、あちらはスマホの画面を映していたのに対して、本作はスマホを見てニヤニヤする人間しか捉えていないところに洗練を感じる。 いやもう、ほんとに、隅から隅まで愛おしくてたまらないから止まりませんわ。 空前絶後の超絶怒涛の大傑作! 6年ぶりにパンフレット買っちゃったもん。