レビュー
【未解決の解決事件】 監禁された部屋の中が世界の全て。そんな5歳児が外に出た“世界”の表現がピカイチ、7年監禁事件のその後にむしろ焦点を当てた、“本当の事件解決とは何か”に迫る衝撃作。 ◆概要 原作はフリッツル事件を基に書かれたエマ・ドナヒュー「部屋」。監督は『FRANK -フランク-』のレニー・アブラハムソン。出演は『キャプテン・マーベル』のブリー・ラーソン、『ワンダー 君は太陽』のジェイコブ・トレンブレイら。ブリーはこの作品で第88回アカデミー賞主演女優賞を受賞している。 ◆ストーリー 施錠された狭い部屋に暮らす母子は7年間監禁されており、息子にとってはそこが世界の全てだった。ある日、監禁者との言い争いをきっかけに、母子は部屋からの脱出を決心する。 ◆感想かつネタバレ◆ 事件の本当の意味での解決が、犯人逮捕だけで終わらない事を懇々と説く映画。被害者の心のケア、周りの人達がどう関わっていくか、行くべきかについて、実に繊細でリアルに描かれていると思う。その意味で、その点に着目して広げた原作がまず勝っているし、事実を基に書かれたものという事で、その存在意義が多いにある映画だと思う。 同時に、部屋の中が世界の全てな5歳児がその外に出た時に何が起こるのか。自分に置き換えてみれば突然宇宙空間に投げ出されたようなもので、その発想・表現方法にそもそも興味が湧くし、この映画でそれが細かいところまで深く想像・考察され、見事に描写されている事がまた素晴らしい。トラックの荷台で初めて広い空を見た時の目を見開いて驚く様子や、解放後に真っ先に発する“あのベットで寝たい”のセリフが、何気にこの映画ならではのピカイチシーンだったと思う。 また、個々の感情描写が非常に丁寧で伝わりやすい。 母親目線では、インタビュアーに問われた行動の是非に対する葛藤も痛いほどリアルだったし、脱出を計画する中でジャックからの生還可否の問いを濁す様子も何気に絶妙だったし、生還を果たしたパトカーでの母子のハグがこれ以上ない美しさだった。 子目線では、“部屋”を出た後の世界の広がりが、目のヨリや目線カメラ、音のボカシなど多様な手法で表現されていたし、部屋を出て間も無く出る前述の“あのベットで寝たい”というセリフも、部屋にサヨナラを言いに行くラストも、あの“部屋”だけが全てだった人生を実に深く考察している、素晴らしい構成だったと思う。 その構成でもう一つ秀逸だった点。監禁の7年間の重さを、脱出前の生活の劣悪さで表すのではなく、脱出後の登場人物達の気持ちの葛藤いっぱいで描く、ある意味逆の発想。この映画が描きたい事が、部屋からの脱出成功譚ではなく、いかに事件被害者がその後の人生でも被害者であるか、またそれを克服する強い人間愛だという事がそのことからも感じられる。 公開時に鑑賞済みだったけど、改めて見てみると感じる事が随分違う。映画は見る自分の環境の違いでも随分違うものだなあと、変なところに驚いた。また変に映画の奥深さを感じる体験となりました。 ブリー・ラーソンの次回作「キャプテン・マーベル」も、ジェイコブ君の次回作も楽しみだし、原作者の別作品も、製作スタッフの次回作も見てみたい!
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