レビュー
「エレファント・マン」として知られた実在の人物ジョゼフ・メリックの半生を描くヒューマンドラマ。 近頃話題になることも多い「ルッキズム」の問題をこれでもかと追求した作品。約40年前の映画、ジョゼフ・メリックに関しては約100年以上前の人物であるにも拘わらず、未だにこのテーマが現代に通じてしまうこと自体に哀しさを覚える。かくいう自分も差別・偏見を完全に排除できているかと言われれば、自信を持ってYESとは答えにくい。例えば、障碍者の方に対して「かわいそう」と思うことも、実はそれは無意識的に彼らのことを下に見ているという点で差別だと指摘する声もあったりする。自分ではそんなつもりはなくても知らず知らずのうちに差別してしまっている。本作はそんな内に隠れた本能的な差別意識をあぶり出してくるような作品で、鑑賞後はかなり複雑な心境に陥ってしまう。 しかし、そういった「マイノリティへの差別」といった残酷な現実を突きつけながらも、本作からは「人を見た目で判断してはいけない」という普遍的な教育メッセージも読み取れる。メリックは「容姿が醜い」という理由で、侮辱され、軽蔑され、様々な酷い目に合ってしまうが、実は彼はその容姿とは裏腹に知的で芸術を愛する一人の青年に過ぎなかった。その人間的な魅力から、彼を病院に引き取ったトリーブス医師をはじめ、彼の世話を担当する看護師たち、大女優のケンドール婦人など多くの人が惹きつけられる。誰よりも醜い容姿のメリックは誰よりも純粋な心を持っていたのである。見世物小屋の興行師や夜警の男、その他メリックに対して屈辱的な行動をとる者たちこそ、本当に醜い人間なんだということをこの映画は教えてくれる。 監督のデヴィッド・リンチは奇怪なクリーチャーや独創的過ぎる世界観を作り上げてきた、ほとんど変態に近い人物だと思うので、彼がジョゼフ・メリックの凄絶な半生を、しかもそれを大真面目に語ることに最初は違和感を覚えた。しかし、彼は「醜い」「気持ち悪い」ものを生み出しながらも、そこに【美しさ】を見いだしてきた張本人である。そんな彼はこのジョゼフ・メリックのことを本気で、心の底から美しいと思っていたのではないだろうか。それを思うと、この『エレファント・マン』の監督は彼が適任だった、いや、彼以外にはあり得なかったとさえ思います。
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