レビュー
YOU

YOU

4 years ago

4.0


content

野火

映画 ・ 2014

平均 3.3

2021年09月21日に見ました。

塚本晋也が監督・脚本を務めた、2015年公開の戦争スリラー。 大岡昇平による同名小説の2度目の映画化となる本作では、監督の塚本晋也が主演・製作・脚本・編集・撮影の6役を務めた構想20年の自主制作・自主配給作品とのこと。「地獄絵図」という言葉はこの映画の為にあるのではないかと錯覚する程、この世のものとは思えないような惨たらしい光景が”ひたすら映し出されるだけ”の映画体験でした。ただこれは本作においては完全にプラスに作用していると思います。まず本作は「撮影」が非常に印象的です。決して映画的とは言い難い「デジタル撮影っぽさ全開の明るく鮮やかな画面」にはどうしても安っぽさを感じてしまいますし、特に青々と生い茂った森の風景を捉えたショットは完全に家電量販店の大型テレビで流れているデモ映像のように見えます。ただこのルックが身も蓋もない戦争の悲惨さを一層際立たせていますし、何より観客に対して芸術への昇華や別種の感慨を生み出す余地を一切排除するような”徹底したリアリズム”の意識が如実に反映された画作りだという風に感じました。劇中で描かれる惨烈な戦場を「歴史の一部」ではなく「つい最近までそこにあった悪夢的世界の断片」として捉える視点とそれに最大限意味を持たせる為の過度な残虐表現、これは戦争映画の作り手として至極真っ当な姿勢ですし、日本が後世に残すべき作品として後年では本作の纏う理念やテーマ性も更に深く見出されていくと思います。 また先程述べた事とも重なるポイントとして本作は製作費を出資してくれる会社を募ったものの賛同が得られなかった為にやむを得ず自主製作体制へとシフトしたらしいのですが、これにより完成品は全編がとにかく引き締まっている上に物語のテーマもより研ぎ澄まされているような印象です。具体的には塚本監督の「引き算の上手さ」ですね。直線的な物語構造のシンプルさはもちろんのこと、セリフや主要登場人物も非常に少ないですし、敵国側の姿や人物の背景なども劇中では一切描かかれていません。ただそれでも残虐描写だけは量もパターンも非常に豊富であり、塚本監督の描きたいシーンや伝えたいメッセージがこれ以上無い程クリアに明示されているとも言えます。こうした「写実主義的ルック」「完全主観の直線的プロット」「極度に限定された脚本や演出」「エクストリームな残虐描写」という特徴を持つ本作は、明らかに”大林宣彦監督作とは正反対の資質”でもありますよね。まさに今述べた要素を180度反転させたものが大林監督独自の作家性に直接リンクしますし、ただ興味深いことに両極端に位置する2者ですが手掛けた作品は共に”限りなく映画的な映画作り”に貫かれています。「”戦争”という存在が失われつつある現代への痛烈なアンチテーゼ」という本作のスタンスは大林監督の”戦争三部作”とも完全に重なりますし、共に自主映画監督だという点でもこの2人の表裏一体な関係性は非常に面白いです。塚本監督が本作に込めた想いを更に深く掘り下げる意味でも、原作小説や59年の市川崑監督版も参照してみたくなりました。とにかく凄まじい作品!これだけは言い切れる! 🍠