レビュー
星ゆたか

星ゆたか

3 years ago

4.0


content

隠された記憶

映画 ・ 2005

平均 3.3

2023.7.24 「愛、アムール」(2012)というアカデミー外国映画賞作品が忘れられない。 ミヒャエル・ハネケ(1942年.オーストラリア)監督の。こちら本作は、 カンヌ映画祭監督賞受賞映画。 ディスクダビングで残しておいて良かった。 音楽も効果音も少ない作風で。 一度目の鑑賞で軽く眠り落ちたので、 体勢を整えて再度挑戦。 前から再度見直して、深い感銘を受けることに。 特にそれぞれ立場の違う熟年の男性が。 日頃我々はある事柄に深く心に刻み対応し、その蓄積した感情を大人の理性で抑えているが。 ふとした瞬間にその感情が沸き起こり、嗚咽するそれぞれの場面で、つい “もらい泣き”してしまった。 〈成功した人生〉を送るTVキャスターの夫ジョルジュ、ジャーナリストの妻アンヌ、そして12歳の息子ピエロの家庭に。 突然忍び込んでくる、謎の不安をあおるビデオテープの配達。 最初は自分たちの家の前景から、家庭人の昼間の出入りを延々と撮影したもの。二度目の夜の出入りには子供の落書きのような、血を吐く子供の絵が添えられて。しかもその絵は同じものが息子の学校にも届けられる。 三度目のテープには走る車の行き先は、ジョルジュの老いた実母の住む彼の実家。今度は首を跳ねられた鶏の絵が一緒に。警察に届けるが、事件が起きてからでないと動かないのは定例の扱い。 ただここでハッキリとジョルジユには、ある昔の忘れられていた“嫌な”記憶が呼び戻された。 それは40年以上前、彼が6歳の頃。 使用人として働いていたアルジェリア人夫婦が、アルジェリア独立運動のデモに参加して命を落として。 残された彼より少し年長の息子マジットを。 彼の両親が不憫がって養子に迎え入れた。しかし同じ部屋で寝泊まりすることがジョルジュは嫌で、両親とマジットの双方に、ウソを付き。 この養子話を壊し、マジットをどこか施設に追いやった過去があった。 これはその時のマジットの恨みからきているのでは?。 そのせいで、あの時の“嘘”の一つ。 『意地悪な鶏の首を跳ねて殺せば、両親も喜ぶ』を受けてマジットがナギナタで鶏🐔を殺し、そのままジョルジュの方に向かってくる悪夢にうなされるような事も起きてきて、神経もさらに安らがず。 そして次のテープには。 あまり知らない街に住む、現在のマジットの住居に招き入れる道順が示されていた。 この間あまり昔の思い出したくない記憶の話をしたがらない、ジョルジュとアンヌの間で、夫婦のイザコザがあって。息子の反抗期も重なって家族の関係がギクシャクする描写が、ドラマを重層化させていく。 そして何より、登場人物のセリフが状況やその人の性格などを考慮して、的確で時にユーモアを挟み優れているのも気に入った。 そして40年ぶりのジョルジュとマジットの対面。 『もうこれ以上嫌がらせをしたら警察に取り締まってもらうからな!。』 『ビデオテープ?、絵? 何のことだ?。そんな事知らない。それにこの場所がよくわかったな!。』 二人の容姿から現在の幸せ度が測れる。 この時のやり取りは部屋に設置された隠しカメラで撮影されていて。 激しくこれ以上の嫌がらせを続けるなと言っている場面のテープが、ジョルジュの会社の方にも送られていた。上司からなるべく穏便に対処するように言われる。 この映画は、この謎の故意に撮影されたビテオテープや絵を送り届けている犯人は誰だ❓。という焦点を最後まで明かさないミステリーである所が最大の特色。 後半マジットの息子の青年が登場するが、彼もそんなこと知らないと言う。 私は二度三度と場面を戻して見た時に。 最初の方に暗闇に一瞬、顔を見せる天然パーマ(アルジェリア人に多く、)の少年の面影のショット。 これはマジットの少年が少し成長して、施設に送られ勉学の道から外されジョルジュを恨んだろうの年齢の姿か?。 ジョルジュの成功した姿をTVで見た彼のその頃の思いが沸き起こり。 《怨念の具象化》でこの脅迫の怪奇現象が起きたという解釈でもいいのでは。 そして更に付け加えるなら。 その〈怨念〉がこのマジットの息子に〈憑依〉して“やらせていて”。 普通の状態では“知らない”と言わせているのだと。 と思った。監督はどうこの映画を受け止めるかは、観客に委ねた訳だから。 その後のあのマジットの衝撃的展開。 そしてラストに込められたジョルジュの子供とマジットの息子の和解という。 未來への願いという点からも。 私はそんなこの一度目の感想はそんな所に。 またマジットの息子は最後に。 『貴方を見てて“疚しさ”(やましさ=良心に恥じる所があって気がかり)とは何かがわかった』という言葉を残す。 とにかくカメラの据え置き、長回しの画面という特徴的なスタイルで、繰り広げられる映画を興味深く見た。 そして観客は繰り広げられる映像がそのまま作品の進行を意味するかと思えば。 それは劇中の主人公に送られたビテオテープの映像であったことなどの “肩すかし”である感触がいかにも独特‼️ その辺を退屈と捉えるか、役者の芝居、背景のセットに込められた“間”に赴きを置いている所に感心するか。 観客次第という所か。 ダニエル・オートウィユ(1950年アルジェリア出身フランス俳優)さん。 「愛と宿命の泉」(87)に出てました。 ジュリエット・ビノシュ(1964年フランス)さん。「イングリッシュペイシェント」(96)の他、世界三大映画祭の女優賞受賞の俳優です。 またジョルジュの実母役の アニー・ジラルド(1931~2011)さんは古くはルキノ・ヴィスコンティ監督の「若者のすべて」(60)に出演以降の、 フランスの名女優のお一人です。 監督はこの2005年当時の作品に。 『個人の罪と集団(国家)の罪が重なり合う事態は、どこでも起こりうること。フランスの政治家は現代の“階級社会”が生み出す矛盾に対処できてない。あの暴動をめぐるメディア報道が、正確に貧富の格差を伝えているとは思えない。ただひとつの解答で謎をすっきり解消するのでなく。観客のそれぞれの視点に委ねるべき。』と語っている。 この真意は2022年11月にフランスで起こった移民二世、三世による “暴動”を予告するものとすら思える。