空想と実際とは仲々に一致仕難いのが浮世の常である。これはまたある背低く、小髭生えたる男が、パリー、ロンドンへと新婚の旅を試み、あわれ散々の目にあったる失敗の悲しく可笑しい物語である。彼は新婚の夢円らかなるままに、可愛いい新妻と共々に手に手をたづさえて、ヨーロッパの見物と出かけた。が、その旅行は二人切りの浮世離れた楽しいものではなかった。頑迷極りない姑が同行を主張したからである。で、彼の気の毒な失敗は先ず大西洋を渡る汽船中に於て突発した。それは同船した焼餅やきの男が、彼と自分の妻とが妙だという疑いを起した為であった。で、その結果として彼はひどい目にあった。次でパリーでは、カフェで失態を演じたが為に追い払われ、ロンドンへ行っては霧と悪漢団とに襲撃せられ、しかもその間中というもの一緒に附いて来た姑に日毎夜毎悩まされどうし、というのであったが、それがつのりつのって遂にロンドンに於てある夜、空前の珍活劇を演じた末、這う這うの態で妻君ともども、アメリカさして舞い戻った。というのが事の次第である。