レビュー
レビュー
隣の唐十郎
3.5
北イタリアの神秘的な景観。魚の背ビレのように鋭く切り立った山岳地帯は人の立ち入りを阻むような厳しい環境。 そんな険しい山あいの、小さな村のタバコ農園で働く若者ラザロは、皆から頼りにされる働き者。ちょっと頼られ過ぎて、良いように使われてるようにも見える。 物語の前半は貧しく素朴な村の生活。 後半では都会の片隅でひもじい生活。 どっちに転んでも貧しい生活の中で、何故か[変わらないラザロ]がいる。 ラザロがいつの時代も変わらない[人々の幸福]の象徴だとしたら、あまりにも非力すぎる。 無垢な魂の象徴のように街に消えていく[狼]の姿が悲しい。 現実に溶け込んだ[おとぎ話]が不可思議な余韻を残す物語でした。
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ジュネ
4.5
2019年89本目は、未だ37歳にして既にその名を各映画祭にて轟かせる若き女流監督、アリーチェ・ロルヴァケルの新作『幸福なラザロ』。 聖書や神話をモチーフとしたありがちな寓話かと思いきや、予想以上に鋭いフックを脇腹に突き刺される一作で、宗教色強めだからと敬遠するのはもったいないと感じるくらいの拾い物でした。 主人公のラザロは何があっても穏やかな面持ちを崩さず、面倒な頼みごとも一手に引き受ける好青年なんですが、周りの人間はそれをちょっと見下しているんですね。また、ラザロの暮らす集落は近代にありながらも不法に農民を搾取する領主が支配を続けており、「被搾取」の立場にある人々が善意をもって奉仕するラザロを搾取しようとするマウント構造に、序盤から妙にヒリついた気分にさせられるのです。 ところがこれはほんの前振りに過ぎず、後半はまさかの展開で彼を「聖人」として描こうとするんですけれど…現代社会への批判・警鐘にしても何て残酷な筋書きなんだと心底同情してしまいました。 かつてキリストは十字架を背負って茨の冠を身につけ、傷だらけになりながらも人々のために信仰を説いたわけですが、本作はそんな「自己犠牲」が今の世界においていかに無意味であるかを物語っているかのようで…非常に鬱々とした足取りで劇場を後にすることになりました。
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御抹茶
4.0
はたして彼は幸せだったのだろうか。 人のために。自分がそうしたいから。 この考えは自分自身を幸せにするのだろうか。 上映中、この考えが頭を離れなかった。 自分本位に生きる家族、友人。 人のために生き、人のために死んだラザロ。 ラストはやりきれなさに静かに涙が流れた。 疑わず、ひたすら純粋に人のために人生を捧げた人だったのに。 きっとラザロは自分の気持ちに素直に生きていたから幸せだったのだろうけれど、側から見るとかわいそうと思えてならない。この感情は間違っているのだろうか。 はあ、幸せとは一体。
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