王家の谷


一八八一年、カイロにおける考古学会議で、若い一人の考古学者が、ときおり謎の盗品の出るナイル河上流の山岳地帯を探検することを提案した。その頃、山岳地帯では族長セリムが死んでその埋葬が行なわれていた。セリムには二人の息子があった。兄弟は、一族の慣習に従い、伯父によって秘密の谷間に案内された。そこには、何代にもわたって一族の生活を支えてきた王家の墓地があるのだ。年老いた伯父(A・アブルフートー)は、棺の一つをこじ開け王と思われるミイラの首から眼を型どった飾りのトルコ玉と真珠と黄金の素晴らしい首飾りを奪った。この行為に若い二人はついていけず、兄(A・ヘガジ)は未亡人となった母(Z・E・ハキム)の前で激しく伯父と争った結果、伯父たちの手で殺され、ナイル河に投げ込まれた。弟のワニス(A・マレイ)は黙って一族から離れて行った。しかし、一族の生計を支える墓の秘密の唯一の証人である彼には厳しい監視がつけられた。そしてワニスは、一族の掘り出した宝を売りさばいては大儲けしている美術商アユーブ(S・ヌーレディン)と争い、彼を傷ついた。そんなとき、蒸汽船でナイル河をさか上ってきた若い考古学者が集落に到着した。ワニスは彼に一切を語った。盗掘者という一族の恥多い生活に終わりを告げるべきだと考えたからだ。ワニスの案内で考古学者は王家の墓地に入った。そこにはおびただしいミイラの棺が並んでいた。失われた三千年の歴史の環がつながっていたのだ。ワニスの伯父は、白布におおわれて静々と運び出されて行くミイラの棺を奪いもどせと部下に令じたが、しかし、今となっては王者の尊厳に打たれたかのように、村人たちは黙々と行列を見送るだけだった。永遠の時を秘めた山岳の夜が明け、棺を乗せた蒸汽船はカイロに向かって下っていった。ワニスも独り、どこへともなく去っていった。
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