昭和の初期。林ふみ子は行商をしながら、母と駄菓子屋の二階で暮らしていた。彼女が八歳の時から育てられた父は、九州から東京まで金を無心にくるような男だった。隣室に住む律気な印刷工安岡は不幸なふみ子に同情するが、彼女は彼の好意を斥けた。自分を捨てた初恋の男香取のことが忘れられないのだ。母を九州の父のもとへ発たせたふみ子は、カフェー「キリン」の女給になった。彼女の書いた詩を読んで、詩人兼劇作家の伊達は、同人雑誌の仲間に入るようすすめた。
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