人里離れた海辺の森の中に住む年老いた母は、深く病み、息子に見守られながら間もなく訪れる死を待っている。自分の生涯を振り返り、かぼそい声で語る母。そのひからびた白い手を、息子の柔らかな手が包む。つましい二人の暮らし。行く夏を惜しむような陽射しの中を、抱き合いながら散歩する母と息子。二人の間を過ぎてゆく海からの風。大きな樹の幹に寄り添いながら、息子が読む遠い昔の母の手紙。窓の外に咲く小さな白い花。丘の上を蛇行する道。さいはての草原を煙をなびかせながら行く列車。蒼い海に漂う白い帆船。母は死に、しかもなお木々は変わることなく息づいていた。
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