主婦のいない槙家に仕えて十六年、献身的で心の優しい女中の美代は、ミッション・スクールの校長である主人信太郎、父の学校に通う次女眞梨子や長男秀樹などの暖かい愛情と信頼を受けていたが、何故か長女の由紀子だけは彼女によそよそしかった。由紀子はまた自分に向けられた会社の同僚、富田次郎の清純な慕情をも頑なにうけつけなかった。--と、そんな或る日、顔を蒼白にした彼女は家へ倒れこみ、往診の医師によって掻爬手術の不結果と診断された。美代の真心こめた看護のおかげで、由紀子は信太郎にも気づかれることなく、四、五日後には生色を取り戻したが、すでに自分の秘密を握っている美代の存在が前にもましてけむったく思われた。その兄丈之助が持込んだ美代の縁談をきっかけとして父信太郎は永い間の美代への愛情を打ち明け、彼女との結婚を子供達に提議したが、由紀子一人の依固地な反発に遭って不可能となった。美代が郷里へ帰ることになった前日、かつて由紀子を犯した不良の水上がゆすりにやってきた。芯からの怒りに身を震わせる美代。--由紀子の心は始めてひらき、美代のうちにまぎれもない「母」の姿を発見した。