新聞記者の佐々木明子(沢口靖子)は、父の遺品を持って蓼科に来た。取材もあったが、実は探している人に会えるかもしれない、という予感があった。高原のホテルは秋の気配が立ち籠め、湖は色づいた木立を映していた。明子が吉岡園子(藤村志保)という老婦人を最初に見かけたのは、観光スポットにもなっている小さな庵、無藝荘だった。無藝荘の守女である園子に、ホテルの支配人(栗塚旭)が恭しく紅茶を注ぎ差し出していた。薄汚れた老婆に仕える紳士、それは奇妙な取り合わせだった。