奈良の町はずれの荒寺の門前にたたずむ惣嫁と呼ばれる売女三人。その中に、老い疲れた顔を厚化粧にかくしたお春の姿もあった。乞食の焚火に明るんだ羅漢堂に並ぶ仏の顔に、お春は過去の幾人かの男の面影を思い浮かべるのだった。--若く美しかった御所勤めの頃のお春に懸想した公卿の若党勝之介は、彼女をあざむいて寺町の中宿へつれ込んだところを、折悪しく役人にふみ込まれた。お春とお春の両親は洛外追放、勝之介は斬首に処された。