12月の熱い涙

A Warm December
1972
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マット・ヤンガー(シドニー・ポワチエ)は、医師としての激務から解放され、ひとり娘のステファニーを連れワシントンから、柔らかい風が軽やかに吹き始める初夏のロンドンを訪れた。父娘2人きりの久しぶりの休暇だ。友人のヘンリー(ジョージ・ベイカー)の妻や娘たちと街を散歩し、マットは楽しみにしていたオートレースの予選に出場した。数日後、マットは空港で会った娘と不思議な縁で再会した。彼が、その娘キャサリン(エスター・アンダーソン)の正体を知ったのは、娘を連れてダンス祭のパーティに出席した夜のことである。彼女はアフリカの新興国トルンダ共和国の大使の姪だった。おそらく聡明な美しさを武器に各国から資本を導入する重要任務を負っているのであろう。翌日のオートレースは決勝だ。会場にはキャサリンも姿を現わして、仲良くなったステファニーと共に声援を送った。その夜、アフリカン・レストランで食事をすませた2人はキャサリンの部屋で一夜を共にした。朝がきたときキャサリンはマットをトルンダに誘い、マットは彼女をワシントンへと招いた。いつの間にか2人は愛し合っていたのだ。が、キャサリンの叔父はそれが気に入らないようだった。ステファニーも父の美しいカールフレンドが大好きだった。嬉しそうにはしゃぐ娘とキャサリンを連れたマットは、ロンドン上空へヘリコプターで空中散歩中、原因不明の発作を起こして苦しむキャサリンを見て不安に襲われた。マットの不安は、キャサリンの血液を強引に検査して現実のものとなった。それは黒人だけしかない、赤血球がどんどん減り始めいつか死にいたるカマ状赤血球症という不治の病だった。治療の手だてはなかった。キャサリンは何もかも知っていた。そしてあとわずかしかない命を、まだ生まれたばかりの若い国に捧げたいという。マットは、その人が母になる日を楽しみにしている娘に、真実を話さない訳にはいかなかった。静かに聞いているステファニーの眼から大粒の涙がこぼれ落ちた。大きな勇気に支えられているキャサリンの外見はいつもと変わらず健康そうだったが、肉体はすっかりむしばまれているのだろう。マットと共に郊外の小旅行に出かけたキャサリンは再び発作に襲われた。マットの献身的な看病で命をとりとめたとき、キャサリンはそれまでかたくなに拒みつつけていた彼のプロポーズを受け入れた。今は彼女にとって人生の12月。死が刻一刻と迫っているとき、安心して寄りかかれる夫と可愛い娘が欲しかった。だが結婚の話しを聞いたキャサリンの叔父は、姪を引きとめた。“良く考えてごらん。あの男は妻を2度失い、娘は母を2人亡くすことになるんだよ。”いくら愛していても、その愛が愛する人を苦しませる結果に終わるとしたら・・・。キャサリンは心を決めた。一方、約束の時間に現われないキャサリンを迎えにいったマットは、はじめて彼女のこなかった理由に気づいた。キャサリンは愛するがゆえに身を引いたのだ。“さようなら、私の夫。暖かい12月をありがとう”。この言葉の中に隠された悲しみが、どんなに深いものか・・・。笑顔を見せながら、いまにもあふれそうな涙を懸命におさえているキャサリンにマットは黙ってうなずいてみせた。ワシントンに向かう飛行機の中には、悲しみを抱いた父と娘がしっかりと手を握りあって、ひっそりとすわっている姿があった。

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